お土産や編・ピンク
綾は意を決して下着を取ると、谷さんのいるバスルームにそっと入った。
ふわふわと立ち上る湯気で、視界ははっきりしなかった。
「あや・・・こっちへおいで」
谷さんは優しく声をかけてくれた。
谷さんは綾に背中を向けている。
綾は少しの間考えて、いつもしているように自分の体の部分を
まず洗ってから、湯船に入った。
谷さんはやっと振り向いた。
僕も入るよ。
谷さんは湯船に入ってきた。
もう多分、体も髪の毛も洗い終わったのだろう・・・
髪の毛は濡れていたから。
谷さんは綾の体の方は見ないようにしていた。
「大丈夫・・・・大丈夫・・・・。さあ、ゆっくり入って・・・」
☆
綾は湯船から出ると、体をこれまたいつもしているように
洗った。
綾は足から上へ上へと洗うのだった・・・。
「背中、洗おうか」
谷さんが湯船から出てきて言った。
谷さんは戸惑っている綾の手からスポンジを取ると
綾の背中を洗い出した。
くすぐったい・・・・。綾は少し体をくねらせた。
よく子どもがくすぐられた時にするように。
(人に背中を洗ってもらうことなんてないもの・・・)
谷さんは何も言わない。
ただ黙々と洗ってくれている。
今、いったい何を思っているの?
今度は手桶でお湯をかけてくれた。
気持ちいい。
☆
「谷さんの背中も洗わせてください」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・お願いしようかな」
お互いに目は合わせない・・・・って言うか、合わせられない、
綾もまた谷さんの裸は見ないようにしていた。
谷さんは椅子に座った。
綾は丁寧に洗い始めた。
石鹸をつけて、肩から順に・・・・・
きっとぎこちなかったと思うのに、谷さんは
「気持ちいいわ・・・・」と言った。
背中を洗い終わった・・・・お湯流してちょっとすると
「ありがとう・・・ゆっくり入りや」と言って
谷さんは先にバスルームを出た。
谷さんは綾に気を遣ったのだろう・・・・。
ただ、谷さんはいつもより素っ気ないような気がした。
綾もお風呂から出た。
☆
谷さんは浴衣を着て、ソファに座っていた。
二人分のお茶が用意してある。
綾は髪の毛を乾かしてから出てきたので、
谷さんはだいぶ待ってくれたはずである。
綾も浴衣を着て、ソファの前に来た。
「そこに座って・・・・」谷さんは言った。
この時、お風呂以来初めて目が合った・・・・。
谷さんは穏やかな目をしていた。
「あや・・・・・僕の話を落ち着いて聞いて欲しい」
綾はうなずいた・・・。
お風呂から上がったばかりで、かなり体が熱い・・・・。
「綾・・・・今日は何もせんとこう。ただ一緒に休もう・・・・それが一番いいと思う」
「谷さん・・・・」
「あのな、初めてって・・・・何ていうか、すごく大事なことやろ。
それはわかるやろ。男と女は体も違うし・・・感じ方も違う。
女の人は感情から入っていくと思うねん・・・・。
でも男は性欲の方が勝つこともある・・。うーーーん、難しいな。
たとえば、君に付き合ってる人がいたとする・・・・。
その人が体を求めてきたら、君はそれを許すかもしれない。
でも、女の人は彼のことが好きやから、許すんや。
別にそんなことしたいわけやない・・・。
特に、初めての時はそうや。多分・・・・。
無理にそんなこと、せんでもええやろ?
もっと、大切なことはたくさんあるはずやし、
綾にはもっと自分を大切にして欲しい・・・」
「谷さんは・・・谷さんは・・・・したくないんですか?」
「ううーん、それは究極の質問やなあ・・・・。なんて答えたらええやろうなあ。
僕も普通の男やしなあ。でも、綾には大切にして欲しいし・・・。
若い頃なら迷わず、したやろうなあ・・・正直。
でも、今はなあ・・・・お猿さんとは違うしなあ・・・」
「お猿さん?お猿さんって何ですか?」
「ん?お猿さん・・・・いや、昔の連れがよう言うとったんや。
自分はお猿さんやって。お猿さんは自分の性欲には素直やろ?」
谷さんは初めて楽しそうに笑った。
綾も笑った。
お猿さんって・・・いったい・・・・。そうなの?
☆
それから、たくさんたくさん谷さんの話を聞いて、
綾の話をして一緒にベッドで休んだ。
谷さんはベッドに横になったとき、
綾にくちづけした・・・・・。
それは最後のくちづけかもしれない・・・・。
大人の・・・・多分、少し大人のくちづけだった。
谷さんは、少しほんの少し、苦しそうな顔をした。
「綾の体は本当に、ピンクなんやなあ・・・・
可愛いなあ・・・・。
綺麗やなあ・・・・。やっぱ、これ以上はあかんわ。
無理・・・」
そう言って・・・体を離した。谷さんは少年のような顔をしていた。
谷さん、ごめんね。
そして、ありがとう・・・。
今まで本当にありがとうございます。
私を大切にしてくれて。
たくさん、いろんなこと教えてくれて。
谷さんに出会えたこと・・・本当に感謝します。
谷さんが谷さんで本当によかった。
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