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八坂物語 4・思わぬ小悪魔出現

「綾ちゃん、計算合った?」

「ううん、20円足らずやわ」

「そっか~、じゃあ片づけしてから報告だね」

晶と綾はお土産物を綺麗に並べ、最後に棚に白い布を掛けた。

それから少しの間、谷さんを待つことになった。



この倉木 晶という子は金沢出身。
色白で線が細く、華奢だった。

いつもミニスカートを穿いている。
この日はホワイトデニムのスカートだった。

体全体が丸い感じで、綿菓子みたいとバイト先でからかわれる
綾とは対照的な感じだった。

綾の髪の毛は背中の中ほどまであったが、
晶はショートヘアだった。

晶は短大の一回生で介護の勉強をしていたが、大学生の
同郷の彼氏がいると言っていた。

綾にはまだその正体がよくわからなかったのであるが、
晶は時折、秘密めいた目で・・・それも横目でちらっと相手を見た。

その目は特別な輝きを持っているようだった。

                       ☆


 ロビーの端で谷さんを待つ間に晶は言った。                       

「谷さんって素敵だよね」

「ん?・・・・うん・・・」


「私、誘惑しちゃおうかな」

「へ?」綾は間抜けな声を出してしまった自分に気がついた。

(ちょ、ちょっと何を急に言い出すの・・この子)

「晶ちゃん、彼氏いるんでしょ?」

「ふふふ・・・・」

晶は小さく笑った。またそれも秘密めいて見えた。



そこへ谷さんがやって来た。


「お待たせしました。お疲れさん」

谷さんはいつものように涼しい目をしていた。

「どうやった?計算は出来た?」

綾は恐る恐る、言った。


「すみません、20円足りませんでした」


「そうか」谷さんはちょっとあごに手をやりながら言った。



「ええよ。それはこちらで合わせとくし。20円多いんやったら
お客さんからもらい過ぎの場合もあるけど、足らんのやったら・・・
その方がええ。
それよりも慣れない場所で、よう頑張ってくれたなあ」

谷さんは涼しい目を細めながらにっこりした。
目がもっと細くなった。


綾はこの時、ちょっとびっくりした。
そんな考え方もあるのかと。
普通は計算が合わなければ、怒られるものだと思っていたが。
谷さんの労いの言葉が心に沁みた。




「ほな、帰ろか。二人とも今日は僕の車で送るし。
 
 
 
 表で待っといて」




晶は「やったね」と言った。

「谷さんに送ってもらえるなんて、ラッキーだね」綾だけに聞こえるように言った。

でも、綾は晶のことがよくわからなかった。
本当に谷さんを誘惑するつもりなんだろうか。

そんな訳ないか。自分の考え過ぎだろう・・・・そう思うことにした。


「さあ、乗って。ちょっと狭いけど」

谷さんの車は白い軽自動だった。
車内は荷物も何もなく、とても清潔な感じだった。


谷さんの運転はとても上手で、この京都の細い疏水沿いの道も
かなり慣れている風だった。

晶が谷さんの後ろ頭をじっと見つめているのがわかった。

綾は理由の分からない不快感を感じて、車窓から外を
眺めていた。

疏水がキラキラ光っている。



すぐに、車は晶の住んでいる藤森(ふじのもり)に着いた。
晶の住むワンルームマンションはここから徒歩で1分だと言っていた。

「ありがとうございました」


晶は丁寧に挨拶をして車から降りた。

綾も手を振った。

「おやすみ」


そんなに広くない車内に二人きりになった。



「藤川さん」

不意に谷さんが口を開いた。


「は、はいっ」

緊張して、声が裏返りそうになった。

(落ち着け、落ち着け・・・)

「今日はありがとうな。疲れたやろ?」

「い、いいえっ・・・全然っ」


「そうか」
谷さんはふっふと笑った。

「ほんなら、また五条にも手伝いに来てや」

深い意味など何もないことは百も承知だったが
綾はその言葉が天にも昇るくらい嬉しかった。



車はすぐに綾の住む丹波橋に着いた。


「あ、雨が降ってるな。君、傘無いのか?」

「いえ、大丈夫です」


「これ、持って行き。風邪引いたらあかんしな」
と、黒い紳士用の傘を渡された。


「ありがとうございます」


綾は傘を受け取ると、しばらく走り去る車を見つめていた。


「傘、借りちゃった」










 

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