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八坂物語 16・わ、わ、わ・・・

「え?」

辺りは真っ暗で何も見えなかった。え?なにここ。

どうやら山の中のようだった。

                        ☆

「さあ、降りて」

「・・・はい」

綾は言われるままに車から降りた。

「こっちにおいで」


谷さんに言われるままについていくと、そこは高台だった。




「うわぁ・・・・」

目の前には夜の京都の街が広がっていた。

右手に京都タワーが見えた。

キラキラ光っている。

Photo

「藤川さん・・・・あんまりオジサンをからかうもんちゃうで」


谷さんはちょっと悪戯っぽく綾の方を見た。

意外と目が細いんだな。

切れ長なのかな。


谷さんの髪の毛が夜風に揺れている。

綾の方は全然からかっているつもりなどなかった。

どちらかと言うと本気に近かったのだが・・・・。


「君、いくつや?」

「18です。もうすぐ19ですけど」


「そうかあ・・・・若いなあ・・・・・」


温かい風が二人の間を吹き抜けていく。

「あのな、一つ言うといてあげるわ。よう聞きや」

「え?・・・・・・・・はい」




「何笑てんの」

「笑てませんけど・・・」




「・・・・自分を大事にしいや」

「・・・・・はい?」



「自分を大事にしいや」

「あ、はい」



「それからな・・・・無闇やたらにそんなこと言うたらあかんで」

「何をですか?」



「その・・・・初めての人とかなんとか・・そういうことや」

「ああ、無闇やたらには言うてませんけど」

こんなこと言ったのは生まれて初めてのことだった。



「ほんならまあええけど・・・・いやいや、ようない。

男にも色んなヤツはおるやろうけど、そんなこと言うたら襲われんで。

まあ、僕は襲わへんけどな」


「ふう・・・ん。そうなんですか」

それは何故?と聞いてみたい気はしたが、綾は聞かなかった。

それよりも、機会があればもっと谷さんに色んな話を聞いてみたい気がした。



「あの、谷さん・・・師匠って呼んでもいいですか?」

「師匠?落語のか?」


その頃「師匠」という言葉が綾の周りで流行していた。
高校時代の友人との間でも、お互いに「師匠」と呼び合って、
まあ半ば遊んでいた。

恋愛は無理でも、師弟みたいな関係くらいなら大丈夫かな
人生の師匠という意味でこれからは「師匠」と呼ばせてもらおうと
思ったのだが・・・落語って。

でも仕方ないか。若者の間で勝手に「師匠」と呼ぶのが流行ってるだけで、
谷さんはそんなこと知るわけない。


「・・・・まあ、そんなもんです、師匠」

「そうか。僕落語は出来ひんけど・・・好きに呼んで」

「はい、ありがとうございます」


「ほんな、今度こそ帰るで。ああ、言い忘れた・・・明日も五条手伝って。
今日のお客さん連泊やねん」

「連泊ですか」

「うん。修学旅行で連泊は珍しいんやけど、明日は自然体験
する言うてはったな」

「そうですか・・・・分かりました」

結局、見たこともない素敵な夜景を見せられて、
谷さんに自分を大事にしろと諭されて、終わってしまった。



しかし、その帰り道・・・綾はとんでもないものを見てしまった。
谷さんは運転していたので、恐らく気づいていないだろうと思う。


帰り道、南インターのすぐそばの怪しいホテル街を通ることはなかった。
薄暗い道のむしろ静かな通りにも、ポツン・・・ポツン・・・と
ネオンの看板のついたホテルはあった。


たまたまその中の一軒・・・


見たことのあるような男女が建物に吸い込まれるように
入って行ったのが見えた。


その後ろ姿。

「あっ」綾は思わず小さく叫んだ。

「どうかした?」谷さんが聞いた。



「いえ、なんでもありません」




あーー、これは見ちゃいけなかった。

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コメント

つらいことがあったら行く谷さんの大事な場所を見せてあげたんですね~ツクツク的にはキュンとくるいい展開でした~\(^0^)/

投稿: ツクツク | 2014年11月12日 (水) 22時51分

>ツクツクさん

ありがとうございますhappy01
そう言って頂けて嬉しいです。

そうなんです、谷さんだけのとっておきの
場所なんです。
綾が分かってくれるといいんですけど・・・。

投稿: 美月 | 2014年11月13日 (木) 08時40分

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