« 唐崎神社~曇天に笑う | トップページ | 八坂物語 22・君は時々無防備過ぎる »

八坂物語 21・身に迫る危険

事務所の床には毛足の短い絨毯が敷いてあった。

その絨毯の上を店長の皮靴が静かに近づいてくるのが分かった。

背後からゆっくりと。




綾は一瞬、ドキッとした・・・・。なんだろう・・・この感じ。


まさか、考え過ぎだよね、綾はそう思った。

                        ☆

「藤川さん・・・・」

「はいっ」


「僕ね、前から君のこと見てたんだよ」

「え?」


な、な、な何を言うんだろう・・・この人。


綾は身体の向きを変え、店長の正面を向いた。

そして、手の中のお茶のペットボトルをギュッと握りしめた。



綾のすぐ後ろは大きな机がある。




「どうしたの?」



なんだかよくわからないけど、この人の視線が突き刺さる様な気がした。



「君さ・・・」


「はい?」



「やっぱ、いいや」

途中で言いかけて止めるのってなんだか気持悪いじゃない・・・綾は心の中で
思った。


「なんでしょうか?」綾は聞いた。少しでも何か話す方がいいかと思って。





綾はこの店長とこの密室で二人きりの状況をどう打破したらいいのか
全く分からなかった。



「君さ・・・・男と付き合ったことないんでしょ?」

「・・・・・・」



「18歳だったよね。花なら蕾ってとこかな・・・・・」


だったら何?




店長は粘りつくような視線を綾の全身に這わせていた。

どう考えてもおかしいでしょ、この状況。





店長は更に、一歩一歩無言でゆっくりと近づいて来る。




「大丈夫、そんなに固くならないで」


いや、どう考えても固まるでしょ、この場合。

綾はいちいちツッコミを入れている自分が可笑しかった。




「あ・・・・あのぅ・・・」

「ん、なに?」



「私を見たのはどこでですか?」

あーーー、もう一体何を言ってるんだろう。


「君を見たの?・・・・四条の店でも何回も見てるよ・・・。

店の外で漬物並べてるのも見たし、お菓子コーナーで接客してるのも見た」



「そうなんですか」


そのうち店長との距離が50センチを切った。

そのまま真っすぐにどんどん近付いて来る。

近い、近い・・・・近いって。



「タイプなんだよ・・・・僕の」




そして、店長は綾の腕を掴んだ。

「や・・・・」



怖い。


怖い時って声が出ないんだな・・・。


後ろに下がろうとしたけど大きな机が邪魔で下がれなかった。





あーーーーー、神様、仏様。

時はバブルの頃のこと。

世間ではマハラジャ・・・・イケイケが大流行。

でも、綾はイケイケではなかった。

誰か助けて。

|

« 唐崎神社~曇天に笑う | トップページ | 八坂物語 22・君は時々無防備過ぎる »

八坂物語」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/401181/58341704

この記事へのトラックバック一覧です: 八坂物語 21・身に迫る危険:

« 唐崎神社~曇天に笑う | トップページ | 八坂物語 22・君は時々無防備過ぎる »