カテゴリー「カオルスミレ」の記事

21歳の葉月と38歳亜沙子の恋愛

カオルスミレ あとがき

 最後まで読んでいただきましてありがとうございました。今回の作品は私にとってもとても思い出深い作品となりました。と言うのも、今回「初めて」という体験をいくつかさせて頂いたからです。

 まず、自分で書いていて「その世界にのめり込めた」これってすごい事だなあと思いました。今までの自分の書いた文章を読んでみると、なんか深さが無いんですよね。上をするすると滑っていく感じで。だから内容もどうしても希薄な感じになってしまいます。でも今回は自分でも細部にこだわった感があって、面白かったです。また皆さんに読んで頂いてるんだという気持ちもあり、途中からは自分でもちょっと変わったかな~と思いました。

この話の初めにあった「骨」の部分と言えば、まず若い男の子と年上の女性が恋に落ちるということでした。でも・・・・主人公の亜沙子は結婚しているし、葉月は21歳の学生。自分で書いておきながら、深みにはまってしまいました。足を取られたというのかな。自分ならどうするかということなど、小説においては関係ないはずなのに、どうしても自分の倫理観、価値観と照らし合わせてしまう・・・これが苦しかったですね。だから、この話で初めてこんなに苦しい思いを味わったのでした。 

 でも、段々と話を話を進めていくうちに・・・・自分の価値観と亜沙子、葉月を反映させなくても、小説の世界は成り立つと言うのでしょうか、大丈夫だということに気が付いたのです。まあ色んな方に教えて頂いたというか・・・・。その時から随分気持ちが楽になりました。

 それから私の話は小説と言えるほどのものではないと思いますが、恐らく話を書いている者にとっては、読者様からのコメントというのは皆さんが思っていらっしゃる以上に、ありがたく、励まされるものなのです。ですからこの場をお借りして、たくさんのコメントを下さった皆さんに心からお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 「カオルスミレ」をなんとか最終回まで書くことが出来た事、大変嬉しく思っています。もし、もう少しお付き合いいただけるなら物語のサイドストーリーも書いてみたいと思っています。例えば、洋一の出生の秘密ですとか、お舅さんにとって何故亜沙子のばあ様(祖父江 雪乃)が初恋の人なのか・・・とか(笑)時代背景や時代考証のお勉強も必要ですけどね。

 でもこのばあ様の設定として、もうこの世にいない人にするのか、まだ元気でぴんぴんしている田舎のばあ様にするか・・・この設定一つとっても、あなどれないです。自分が何を求めるかですよね。もう、胸キュンは無理かなと・・・だったら、どうしようかなあ・・と。

 いつか、誰かを泣かせられるような話を書いてみたい・・・私の永遠の目標です。ではでは・・・またすぐにお会いしましょう~。ありがとうございました!

 追伸;今日、私の大切な友人の手を借りまして、今まで書いた物語を初めてカテゴリーに分類する事が出来ました。高校時代から始まって、浪人時代のお土産や編、学生時代、またグレープシードオイルなど私の今までの作文を分類しております。もしお時間がありましたら、ぜひ一度お立ち寄りくださいませ。中には冷や汗たらたらの部分もありますが。・・・・少しは読みやすくなったと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。

                                美月

 

 

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カオルスミレ 30・最終回

週末になった。土曜日の朝、亜沙子は葉月に散歩に誘われた。葉月は二人で初めて雨宿りをした公園に行きたいと言った。雨上がりの朝だったが公園には人はいなかった。

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カオルスミレ 29・産婦人科

その日の午後。亜沙子はとある産婦人科の待合室に一人でぽつんと座っていた。木曜日の午後はお産以外は休診だった。

「どうぞ、お入りください。院長が参りました」若い看護士が亜沙子に声をかけた。

「失礼します」亜沙子は奥の院長室に入った。

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カオルスミレ 28・心が求めている

「亜沙子さん・・・本当にいいの?」真っ白なシーツの上に横たわる亜沙子に葉月は言った。

「ダメ・・・って言ったら?」亜沙子は悪戯っぽく言った。葉月の手がゆっくりと亜沙子の着ているシャツのボタンを外していく。その手が微かに震えている事に亜沙子は気付いた。亜沙子の胸もまた小さく震えていた。

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カオルスミレ 27・アイラブユー

暗闇の中を一人で歩いていた。歩いても歩いても暗いトンネル。

その先に微かな光が見えた。光を求めて歩くのに足が重い。前に進んでいないような気がする。今度は後ろから何かに追われていて、必死で逃げようとしていた。でも逃げられない・・・捕まる・・・・助けて、と叫んだ瞬間、目が覚めた。

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カオルスミレ 26・高速夜行バスで東京へ行く

亜沙子はそのまま京都駅に向かった。亜沙子なりのけじめだった。やはりどうしても唯一亜沙子に優しくしてくれた舅のお墓参りだけはしておきたかったのだ。ちょうど1時間後に東京行きの夜行バスがあった。行き先は新宿南口・・・まあ行けばなんとかなるかという勢いでバスのチケットを買い求めた。

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カオルスミレ 25・亜沙子の決意(下)

「亜沙子さん、あなた女としてよっぽど魅力がないんじゃない?ああ、洋一がかわいそう」

亜沙子のほぼ予想通りの答えが帰ってきたではないか。息子を溺愛する母親というのはおしなべてこんな感じだろう。多分。いつも嫁が悪いのだ。どんな時も。何があっても。  ふふふふふ、亜沙子は心の中で笑っていた。自分の中にこんな感情が眠っていた事も新鮮な驚きではあったが・・・・・。まるでトランプゲームの大富豪をしていて、目の前に自分の大勝ちが見えているときのような気持ちだった。亜沙子は次の瞬間カードを切った。

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カオルスミレ 24・亜沙子の決意(上)

さあ、いよいよ物語もクライマックスへ突入です!?夫が姑と一緒に東京から戻ってきました。亜沙子が決死の覚悟で、夫に離婚してくれと告げるのですが・・・・。

その模様を二夜に分けてお送りいたします(って、なんかのドラマかぁ?)

☆         ☆        ☆         ☆           ☆

いよいよ夫が東京から戻ってくる。亜沙子はなるべく平常心を保つように心がけながら、必要最低限の荷物だけを鞄に詰め込んだ。夫が戻るのは夕方と聞いている。多分、姑も一緒に違いない。亜沙子は夕飯のメニューも朝から考えていた。最後の晩餐である。

 

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カオルスミレ 23・一人の夜

「ごめん。葉月くん、やっぱり今は言えない。でも必ずちゃんと話すから・・・待ってもらえませんか?」

葉月はもちろん亜沙子のことなら何でも知りたいと思っていたし、言いかけてやめられると

ものすごく気になったのであるが、亜沙子の気持ちを大切にする事にした。

「いいよ、でも言いたいことがあったら何でも言って。それで、亜沙子さんの気持ちが少しでも楽になるなら」

「ありがと」亜沙子は葉月のぶらんと下に下がっていた手をちょんと触った。

「今日は帰りましょう」亜沙子は言った。本当はもっともっと一緒にいたかったのであるが、

亜沙子にはこれからどうしてもしなければいけないことがあった。

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カオルスミレ 22・決戦前のご馳走!?

満たされた気持ちでハーブ園を後にした二人。

夕飯は亜沙子が昔行った事のある中華料理店にした。

中華街のあるこの辺りには隠れた名店がいくつもあった。

その中の一つ・・・・平和飯店。

入り口が小さいので、気をつけていないと通り過ぎてしまう。

そんな店だった。

「ここここ。前来た時のまま。ここ美味しいからね。だまされたと思って、ついて来て」

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カオルスミレ 21・告白

「あ、あれ・・・着いちゃったみたいだね」葉月の声に

亜沙子は目を開いた。

葉月はつかんでいた亜沙子の腕をそっと離し、

ゴンドラから降りる亜沙子の背中に

そっとそっと手を添えていた。

力強く押すのでもない。

かといって頼りなげでもない・・・・。

           ☆

葉月のさりげない優しさを感じて

亜沙子は心が温かくなるのだった。

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カオルスミレ 20・ロープウェー

京都駅から新快速電車に乗って、神戸に着いた時にはもう午後3時を回っていた。

「ねえ、葉月くん・・・ちょっと付き合って欲しいところがあるの」

「うん」葉月は素直にうなずいた。

「ええっと・・・確か、ロープウェーだったなあ・・」亜沙子はつぶやいた。

「ロープウェー?・・・・亜沙子さん、どこに行きたいの?」

「布引・・・ハーブ園!」亜沙子は目を輝かせて言った。

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カオルスミレ 19・ライバル出現?

また近いうちに必ず来るからと松子伯母さんに告げて、

亜沙子は桃山の家を後にした。

昨夜の雨の前のような天気とは打って変わって、

からっとした快晴だった。

青空が眩しかった。

これから、葉月に会いに行こう・・・・・

亜沙子は来た細い坂道を下って行った。

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カオルスミレ 18・明日、神戸へ

「8年間・・・・バージンって・・・」葉月が困ったように言う。

「ん、そういう意味!」

「え?」

「もう、いいの・・・さあ、松子伯母さんが待ってくれてるわ

 行きましょう」

亜沙子は葉月の手を取ると、

蛍光灯の紐を引っ張って

電気を消した。

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カオルスミレ 17・亜沙子の真実・・・8年間

中庭に面したガラス戸のある長い廊下を歩いて、

奥の台所に通された。

亜沙子はここに来たらいつも

離れの亡くなった祖母の位牌に挨拶をしに

行くのだった。

「大きくなったわねえ・・・いくつ?」

「21です」などと松子伯母さんと葉月が

話をしている間に

亜沙子は一人離れに向かった。

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カオルスミレ 16・桃山城の見える丘~伯母の家

幻のラーメン屋の噂は以前から聞いていたが、

一人で入るにはどうしても勇気がいって・・・

亜沙子は今まで入れずにいた。

今日は葉月が一緒なので入れた・・・・・。亜沙子は感動していた。

本当にぼろぼろの昭和初期を思わせるような

店内だったが、この店唯一のメニューである

ラーメンは今まで食べた事がないくらい

美味しかった。

「お店、ボロだけど・・・本当に美味しいね」

「ちょっと、亜沙子さん・・・ 大将に聞こえるよ」

葉月は笑いながらささやくように言った。

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カオルスミレ 15・ライブの夜に

あっと言う間に金曜日はやって来た。

亜沙子は昔取った学芸員の資格を生かして、

週3日だけ、とある博物館でパートとして働いていた。

毎日、毎日朝から晩まで家にいるわけではなかったので、

その点はよかった。

朝から夫を送り出して、

自分も京都の伯母の家に泊まる準備をした。

      

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カオルスミレ 14・首はやめてください。

葉月は今頃、どうしているのだろう・・・と

思いつつも、亜沙子はメールはしなかった。

一度、メールしてしまえば自分の弱さがでて、

きっと歯止めがきかなくなるだろう・・・と思ったからである。

一方の葉月は亜沙子からの連絡を心待ちにしていたのだったが

亜沙子がそれを知る由もなかった。

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カオルスミレ 13・ベリーダンス

その夜・・・。

亜沙子が夕飯もとらずに

自室として使っている4畳の部屋にこもっていると

部屋をノックをする音が聞こえた。

亜沙子はビクッとした・・・・。

「あーさーこーちゃーん・・・・さっきはごめんねえ」

夫の猫なで声が聞こえた。

そうか・・・今夜はそういう甘えキャラなんだ・・・・。

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カオルスミレ 12・いばらの城

玄関のドアを開けると、案の定姑はもう来ていた。

玄関には恐らく2万円は下らないであろう、

派手な模様のブランドの高級傘が立てかけてあった。

靴もおそろいのブランド物だった。

亜沙子は努めて・・・・明るい顔を作った。

心臓のおかしな動悸はいつも通りだったが・・・・。

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カオルスミレ 11・離したくないよ。

葉月は後ろから亜沙子を抱きしめていた。

きつく。

心は狂おしいほどに亜沙子を求めていた。

けれども・・・今はどうする事も出来ない。

それは亜沙子にとっても同じことだった。

どういう状態であるにせよ、亜沙子には夫がいた。

「帰らなきゃ・・・」

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カオルスミレ 10・夫からの電話

急いで体を起こし電話を見る亜沙子。

その顔はさっきまでとは違い、こわばっている・・・。

「だんなから・・・・だわ」

「・・・大丈夫?」

亜沙子はうなずくが・・・顔は大丈夫そうではない。

「出なきゃね・・・」一人でそうつぶやいて亜沙子は

電話に出た。

「もしもし・・・・」

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カオルスミレ 9・僕のキモチ

「亜沙子さん・・・こっち来て・・・」

葉月は部屋の真中にあるまあるい木の円卓の方に

亜沙子を呼んだ。

葉月はマグカップにカフェオレを入れてくれていたのだった。

「インスタントですけど・・・・」

「ん・・・いい香り」

亜沙子はにこっと笑って、葉月を見た。

マグカップはおそろいで

ブタの絵がついていた。

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カオルスミレ 8・女性の下着がある家って・・

「亜沙子さん・・・そんなに固まってないで・・・どうぞ」

バスルームのそばに突っ立っている亜沙子に向かって、

葉月は笑顔でこう言った。

あまりにも無邪気すぎて・・・

亜沙子は自分の方がよこしまな考えを持っているような気がして、

恥ずかしくなってしまう。

亜沙子はバスルームに申し訳なさそうに入った。

バスタオルを浴槽のふちかけて、

ジャケットを脱いで・・・・

「はっ」と気が付いた。

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カオルスミレ 7・夢ハイツ・ドリーム

「もう走れないっ。足がつるよーーー」

「もうすぐだから・・・・」葉月は亜沙子の方を見て笑った。

「こっち、見ないで。お化粧がはげてる・・・」

「大丈夫。亜沙子さん・・・お化粧してない方が可愛いって」

「え?今なんて言ったの?聞こえなかった」

「なんでもない・・・」

葉月は握った手をぐっと引っ張って、更に走った。

  

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カオルスミレ 6・僕のうちにおいでよ。

「亜沙子さん、ごめん。なんか余計なこと聞いちゃったかな」

「いいよ・・」

「雨、止みそうにないね・・・」

葉月は雨粒の次々と落ちてくる空を見上げながら言った。

「ねえ、僕のうちにおいでよ」

「え?」

思わず亜沙子は聞き返した。

「だって、家って三重県だよね?」

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カオルスミレ 5・幸せかなんて聞くな。

「亜沙子さん・・・」

「ん?なによ・・・今度は恋愛の相談か何か?」

「もう・・・」葉月は少し怒ったような顔をした。

「あの時・・・あの雨の日のことだけど」

「あの雨の日?」

亜沙子はわかっていたのに、わからないふりをした。

             ☆

葉月が言う「雨の日」とは

恐らく今から7,8年ほど前の

葉月がまだ背も小さくて可愛らしい中学生の時の

あの日・・・・だと思われる。

結婚してまだそんなに間がなかった頃だった。

やはり今日と同じように

法事で・・・亜沙子は親戚の家に来ていた。

小雨の降る日。

近くの道路まで夫が迎えに来るのを待っていた。

小さい葉月もなぜか同じ道の端っこにいた。

「あれ?葉月くん・・・どうしたの?」

なんでそんなところに葉月がいたのかは

亜沙子にはわからなかったのだが・・・。

もう中学生だったのに、

いつまでも葉月を子ども扱いしてしまう亜沙子は

葉月の頭をぽんぽんと叩いて(なでるように)

「なんでこんな所に一人でいるの?

 お母さん心配してない? 

 この傘、持っていく?

 気をつけて帰りなよ」と

まるで小さい子どもに言うように言ってしまったのだった。

葉月はほんの少し、むっとしていたかもしれない・・・。

その目は「子ども扱いしないで」と言いたかったのかもしれない

亜沙子もそれを思いながら、

夫の迎えの車が来たので

そこに葉月を残して車に乗り込んだ・・・・。

「ごめんね、これからちょっと遠くまで帰るから・・・・」

葉月はずっとこっちを見ていた。

亜沙子が車に消えてからも

ずっと見送っていたのだった・・・。

               ☆

亜沙子も妙にあの日の事が気になっていた。

葉月が言った。

「亜沙子さん・・・・あの時、キラキラして見えました。

 結婚したって、祖父母から聞いてて。

 亜沙子さん・・・・僕の頭をぽんぽん叩いて・・・

 ごめんね、って帰って行きましたよね」

「そうだったね」

「あの時、僕・・・・・・」

葉月は言いかけてやめた。

              ☆

突然、空から大粒の雨が落ちてきた。

ブランコの上には屋根がない・・・。

「あそこ、あの下に行きましょう・・・・」

葉月と亜沙子は公園にある

古いコンクリートの建物の屋根の下に入った。

「ちょっと濡れたね」

「そうですね」

「葉月くん、Tシャツだから・・・風邪引いちゃうよ」

葉月の白いTシャツは濡れて

少しだけ胸が透けて見えていた。

(うわー、これ見たらダメダメ・・・・)

亜沙子は葉月の若くて、

筋肉や血管の美しい身体に

クラクラしそうだった。

そんな亜沙子の心など知ろうはずもなく、

「亜沙子さんのブラウスだって・・・・濡れてますよ」

葉月は少し戸惑ったように

そう言った。

でも、亜沙子の場合下着が透けて見えるということはない。

もう女子学生ではないのだ・・・・。

下着が透けて見えるようなことはしない。

真っ白いレースのついた下着を着けていたのは

若い頃で。

結婚当初は薄いブルーや薄いピンクなどの下着を

好んでいた。

でも今は・・・・

今は人様に対して見苦しいものは極力避けたいと

必ず、ベージュやブラウンの下着を着けていた。

亜沙子は下着には気を使う方だったが・・・

下着のカラーの変遷とともに

女の「色」もまるで色褪せているようではないか・・・・。

そんなことを思った。

葉月が付き合う女の子・・・

もしくは一緒にいる友達は、

きっと可愛い下着を着けているんだろうなあ

そんな無駄なことも考えてみた。

(雨宿りをしながら・・・またアホなこと考えてるなあ)

葉月は亜沙子の方をじっと見ていた。

亜沙子の少し濡れた髪の毛、

そして、濡れたためにほんの少し

香ってくる、シャンプーの香り。

亜沙子が好んでつけている

スミレのコロンの香り・・・・。

写る・・・見えない下着のレースの形。

葉月は胸の鼓動を感じていた。

葉月の気持ちを亜沙子は知る由もなかったが、

視線を感じて戸惑っていた。

「なんかついてる?

 おかしいかな?」

「い・・・いいえ・・・・」

葉月は視線をそらした。

              ☆

              ☆

「亜沙子さん・・・・今幸せ?」

「な・なんで・・・なんで急にそんなこと聞くの」

「幸せなのかなと思って・・・・・」

「そんなこと急に聞かれても・・・・」

(私、答えられない。 答えられないの・・・・)

「ねえ、亜沙子さん・・・」

葉月はまだ何か言いたそうに

そして残酷なほど無邪気に亜沙子を見つめる。 

「幸せかなんて聞かないでっ」

亜沙子は思わずそう言っていた。

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カオルスミレ 4・ブランコ

「あの、亜沙子さん・・・もう帰ってしまうんですか?」

「そうだよ。だってめんどくさいんだもん」

「あの・・この近くの三角公園行きませんか?」

「三角公園?いいけど・・・葉月くんは時間あるの?」

「はい」

葉月は恥ずかしそうに返事をした。

(もうーーーーほんと、かわいいんだから・・・)

 

法事があった家の近くには三角公園という公園があったのだが

そこは葉月が小さい頃から、

よく遊んでいた所だった。

亜沙子もまた遊んでいた。

「亜沙子さん・・・ブランコ」

葉月が公園のすみっこにあるブランコを指差した。

亜沙子は笑って、

ブランコに座った。

小さい・・・・。

水色とピンクのペンキがはげてしまった

古びたブランコ。

「亜沙子さん・・・・あの・・・あのね」

「うん・・・」

「お元気でしたか?」

「ん、元気だったよ。 葉月くんは元気だった?」

「うーん、まあまあ元気でした」

葉月は何か言いたそうに見えた。

でも亜沙子は葉月の話をきちんと聞いてやれるかは

自信が無かった。

自分は夫のことで悩んでいたから。

亜沙子は単純だと自分でもちゃんとわかっている・・・

だから、自分が心の中に何か

不安材料を抱えている時には、

つとめて明るくはしていたが、

他人の話にまできちんと対応できるかは

自信が無かったのだ。

聞いているような振りをして

いい加減な事を言いたくはなかった。

「どうした、少年・・・・?」

「はい・・・・。僕、なりたい職業とか無くて。

 今さらなんだけど、来年は就職活動しないといけないし。

 でも、なにやりたいのかわかんないんですよ」

「そう・・・・」

亜沙子はブランコをこぎながら少し考えた。

21の時、自分はどうだっただろう?

(自由奔放だったな。あんまり先の事考えてなかったかも)

「あのさ、私の意見なんてぜーーーんぜん、参考にならないと思うけど。

 それでもいいのかな?」

「はい?・・・・・はい・・・・いいです」

葉月は笑った。

「あのね、30まではやりたい事やりなさいって、大学時代の

 恩師に言われてねえ、私、ほんとにそうしちゃったから・・・・

 やっぱ、全然参考にはなんないでしょ」

葉月は亜沙子の方を見ながら言った・・・

「そんなことないです。僕、ずっと行ってみたいとこあったんですけど、

 行こうかな・・・そんな気になれた」

「そう・・・・聞いてもいい?それってどこなん?」

「外国です。外国の難民キャンプです。色々、本では調べてたんですけど」

「そっかーー。じゃあちょっとまとまった期間とか?」

「そうです。短くて半年ですね・・・・」

「うん。まあ、それくらいはかかるだろうねーー。親が心配するか」

「そうなんですよ。あんたそんなとこ行ったら死んじゃうわよって。

 母に反対されて・・ちょっと思いとどまった時期もあって」

「そうやったん?じゃあおばさんに行きたいって言ってみたんだ」

「はい」

「すごいやん。まあ親は心配するだろうね。

 でもさ、私思うんだけど・・・死ぬ時はどこにいても死ぬからね。

 そういうもんだと思ってるんだけど」

「うん、亜沙子さんならそう言いそうだ」

「そう?そんな風に見える?」

「見えそうにないから・・・・・きっと言うんだろうなって」

(なになに・・・よくわかんないけど・・・

 楽しそうにブランコこいでくれちゃって)

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カオルスミレ 3・再会

5月の親戚の家での法事でのことだった。

少し時間に遅れてやっと会場に着いた亜沙子は一番後ろの

席にそっと座った。 

「ふう・・・間に合ってよかった」亜沙子は独り言のようにつぶやいた。

ほっとして一つ前の席にふと目をやると・・・

見慣れない背中が見えた。

と言うより、この場所には場違いなほどセクシーな背中が

視界に入った。

すっきりとした無駄の無いライン。

まっすぐに伸びた首筋・・・。

亜沙子はドキッとして・・・

そして、

触ってみたい、ふとそんな衝動に駆られるのだった。

(いかん、いかん・・・法事の席で不謹慎だわね)

            ☆ 

お坊さんの読経が始まると 

その背中は眠気には勝てないらしく、

少し前かがみになりながら

ゆらり、ゆらーりと船を漕いでいた。

亜沙子はそれがおかしくて、一人で笑いそうになり

こらえるのに苦労した。

(若い・・・それはつまり眠たいってこと

 一時流行ったわよね・・・・食う・寝る・遊ぶ・・・って。うふふ・・・)

やっと法事が終わった時、亜沙子は躊躇せずに

その背中の主に話し掛けた。

亜沙子にはその見知らぬ背中が誰のものであるか

その時にはもうわかっていたのだった。

               ☆

「葉月くん、久しぶり。いくつになったの?」

葉月くん・・・・と話し掛けられたその青年は

少し照れくさそうにしながら

ぺこりと頭を下げた。

「21です・・・」

「大きくなったねえ」

亜沙子はいつの間にか自分よりもはるかに背の高くなった

葉月を眩しそうに見上げた。

               ☆

亜沙子は葉月が生まれたばかりの赤ん坊の時から

知っていた。

葉月は亜沙子の祖母の知り合いのおばあさんの孫だった。

(かわいい顔は全然変わってないなあ・・・・)亜沙子は思った。

引き締まった無駄のない体には少々不似合いなほど

彼の顔は小さくて、

そしてちょっと童顔だった。

「葉月くん、大学生?」

「はい。そうです」

「ふうん・・・・そっか」

亜沙子はそれ以上は聞かなかった。

(大学生かあ・・・・遊んでるか、全く遊んでないかどっちかだな・・・。)

すると葉月は

「僕、こんなに小さかったんですよね」と無邪気に自分の腰の辺りに

手をやって、自分の背丈を示した。

「そうだね・・・・」亜沙子も笑った。

「中身は全然変わってないですよ」葉月ははっきりとそう言った。

               ☆

片づけを手伝い

亜沙子は親戚の家を後にした・・・。

疎水沿いの駅に続いている道を

一人で歩いていると、

後ろから声をかけられた。

「亜沙子さん・・・・ちょっと・・・待って」

亜沙子は立ち止まった。

「ん?」

振り向くと葉月が追いかけてきてくれたのか

少しだけ息が上がっていた。

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カオルスミレ 2・ナンセンス

「葉月、今日はどうすんの~?」

「オレ?もう帰るわ・・・ちょっと疲れたし」

葉月はルミのきょとんとした顔を見て見ぬふりをして

バイトの店を後にした。

金曜日の夜。11時。

そのまま一人暮らしのワンルームマンションに帰る。

葉月は部屋につくと、すぐにシャワーを浴びるのが日課だった。

               ☆

「ユニットバスってなんか味気ないな・・・」そう思いながらも

上から少し熱めのお湯を全身に浴びていると、

疲れも流してくれる。

今日の嫌なお客の事も・・・忘れられる・・・・。

葉月はバイトで嫌な事があっても

寝たらすぐに忘れるように自分で

自分を訓練していた。

そう・・・・物事をあまり深く自分の中に留めない。

それが破片のように突き刺さり、抜けにくくなる事を

葉月は十分すぎるほど味わってきたから・・・・。

                ☆

葉月はお気に入りのミントの香りのシャンプーを手にとった。

そして、それを頭からかけて片手で器用に泡立てた・・・・。

ミントの香りは特別な思い出を呼び起こすのだった。

「今頃、あの人はなにをしてるんだろうな・・・・

 会えないとわかってるのに・・・・

 なに考えてるんだ、オレ」

シャワーを浴びて出てくると、ガラステーブルの上に無造作に

置いた携帯電話が光っていた。

メールが来た事を知らせるサインだったが・・・・。

葉月はメールの名前を見てため息をついた。

「あやか」それは2ヶ月前に別れた元カノだった。

              ☆

葉月、怒ってる?よね?やっぱり・・・。

あんな別れ方したこと、後悔しています。

葉月のこと、やっぱり一番好きだったんだなって・・・

ね、もう一度やり直せないかな?

返事待ってます。           あやか

「なんだよ・・・今さらだよ。

 もう怒ってないよ。

 お前の方が好きな人できたからって

 突然、別れてくれって泣いたんだろ。

 もういいよ・・・。

 やり直すのは無理」

葉月は返信のメールを打たなかった。

辛かったのは不思議と最初の1週間くらい・・・。

そのうち、自分はあやかのことを

もしかしたら、本当に好きではなかったのかもしれないと

思えた・・・。

あやかに一度だけ言われたことがある。

「葉月・・・・心の中に誰かいるでしょ?・・・・・私のこと見てない・・・」

その時は、そんなわけがないと否定したが、

やはり・・・・「あの人」のことが・・・・と

思った。

「あの人」

その時、またメールが来た。

バイトで一緒のルミだった。

「葉月・・・

 今なにしてんの?

 ちょっとだけ会えない?

 話があんの・・・・          ルミ」 

「ごめん。今日はほんとに疲れた・・・・。

 もう寝るわ。

 また明日ね。                  葉月」

オレ、今は誰とも付き合う気になれないから。

そう言ってこの間も断わったはずだったが。

ルミは何度となくメールをよこした。

オレがはっきり言わないから悪いのか。

「でも言えねーだろ・・・・・嫌いとか・・・・」

              ☆

ねえ・・・・亜沙子さん・・・・教えてよ。

あなたならどうするの?              

 

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カオルスミレ 1・それはDVと違うん?

急にお風呂の扉が開いた。

湯船に浸かっていた私はさして驚きもせず、

そちらを見た。

夫が仁王立ちで、こっちを睨んでいる。

「おい、お前・・・またなんかたくらんでるやろ」

「え?なんのこと?」

「とぼけるな!男からパソコンにメールが来てるぞ」

夫は忌々しそうにお風呂の扉を閉めた。

・・落ち込む。

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