カテゴリー「グレープシードオイル」の記事

一応主婦である綾は主人公なのですが・・・真由、お兄ちゃん、コウちゃん、そしてあきらと登場人物が多くて、まとまりのない痛い作品

グレープシードオイル番外編・「別離それとも抱擁」

夏ももう終わりが来そうな頃・・・・。

あきらが小学生の頃から知っている小さな入り江に二人はやって来た。

そこは地元の人しか知らないパラダイスのような

場所だった。

何もかも忘れて・・・その日一日を過ごそうと決めた二人。

海で泳ぎ・・・・

あきらはここで綾への自分の気持ちを再確認し、

これからも綾と一緒に生きていく覚悟を決めたのだった。

一方綾は・・・。

あきらを愛しながらもあきらとの別れを心の中で決意していた。

そんなことをあきらは知るはずも無く・・・・。

その翌日、初めて結ばれたあきらと綾だったが・・・。

幸せな時間は長くは続かず・・・・。

綾があきらに切り出した、海外行きの話に

驚き、戸惑いを隠せないあきらだった。

綾が別れを決意したのは、

どうしても事故で大怪我を負ったあきらの同僚の

あすかのことを忘れる事が出来なかったからだった。

綾は自分が身を引くことで、

あきらとあすかが一緒にいられるならと、

あきらの気持ちも考えずに自分は

身を引く決意をしたのだった。

               ☆

海から戻ってきた二人だったが

あきらは綾の言葉にショックを受けて、

帰途はほとんど口を開く事が出来なかった。

京都駅であきらは綾に懇願した。

「綾、俺もうちょっと話したいねんけど・・・・・」

「うん・・・・」

「ちょっと俺のアパート寄ってもらえる?」

「うん」

市バスに乗り、あきらのアパートの最寄のバス停で

降りた二人は、とぼとぼとアパートに向かった。

街路樹ではまだセミが鳴いていた。

綾はあきらとは並ばず、

少し後ろを歩いていた。

あきらのアパートに着いた。

午後の5時を回ったところだった。

綾はここに来ると、初めてあきらに会った日の事を

思い出さずにはいられない。

酔っ払って、あきらに迷惑をかけたな・・・と。

あきらはあの頃、ケミカルウォッシュのジーンズを穿いていた。

今はもう穿いていないのだが。

               ☆

「さあ、どうぞ・・・そこに座って」

あきらは扇風機のスイッチを入れると、

冷蔵庫からカルピスを取り出した。

「綾・・・・グレープ味のカルピスが好きやったな」

あきらは独り言のように言う。

「うん・・・・」綾は返事をした。

コップに氷を入れる音が

カランカランと・・・オレンジ色の光が差す

部屋に響き渡っていた。

あきらがカルピスをグリーンの可愛いお盆に乗せて来た。

あきらはいつになく、綾の顔を見ないようにしていたようだった。

それは見たくても、見ることが出来ないのだった。

綾の姿がこれまで以上に心に焼きついてしまう。

どうせなら、綾の幸せそうな笑顔を覚えていたい・・・

あきらはそう考えていた。

でも・・・・どんな時も綾は綾に変わりはなく、

むしろ悲しそうな表情の方がずっと心に

残ってしまう・・・・そういうものではないか。

綾はあきらの不自然な態度に気付いていたが、

それを言おうとはしなかった。

自分の方を見ないのは当たり前だ。

自分があきらにひどいことを言ったのだ・・・。

あきらの心を傷つけているのだから・・・。

綾はついに口を開いた。

               ☆

「あきらはあすかさんと結ばれる運命やったんよ」

「綾・・・・」

あきらは信じられないくらい情けない声で綾の名前を呼んだ。

「あきらは男の子なんやから・・・これからはあすかさんを

 守ってあげないと・・・」

(ああ、もう私ったらなんでこんな事言ってるの)綾は

そう思った。

あきらは泣いているように見えた。

こういう時一体どうしたらいいのか・・・

綾にもわからなかった。

何か言えば言うほど墓穴を掘ってしまいそうな・・・

そんな感じ。

ただ、綾はずっとあきらに言いたくて、

言えなかった事を心にしまっていた。

(本当は私がバイクの後ろに乗っていればよかった・・・

 私が・・・・

 なんで、あすかさんだったのだろう。

 もしも、怪我をしたのが自分だったら、

 あきらとずっと一緒にいられただろうか・・・・)

心の中ではそう思っていた。

「綾・・・ごめんな」

「謝らんといて・・・なんで謝るの・・・?」

「俺が悪いんや・・・。なんであすかさんを

 あの日、バイクの後ろに乗せてしまったんやろう・・・」

あきらは泣いていた。

あきらの黒い瞳から・・・

綺麗な滴が落ちていた。

絶対に綾には涙など見せそうにないあきらが

綾の目の前で涙を流している。

綾がバイクの事故の時の事を考えていた事を

なぜあきらはわかったかのように・・・

今になって言ったのだろう。

「綾・・・ごめん。俺、ずっと事故の日のこと、考えてた。

 お前にちゃんと謝りたかった。

 ごめんな」

あきらは綾のそばに来て、隣に座った。

「・・・・俺、今はもう・・・この場所にはおれへん気持ちや。

 ここにおったらどうしても綾の姿を探してしまう。

 俺、どこにおっても綾の姿を探してしまいそうやから・・・

 ここにはおられへん。

 静かにこの世界から消えてしまいたい気持ちや・・・・」

「あきら・・・・・」

「俺、もうグレープシードオイルの研究はやめる」

「は?なんで・・・なんで急にそんなこと言うん?

 あかん。それだけはあかん・・・・

 好きな研究やってるあきらの姿を見て、

 いいなあと思ったんやから。

 これからも今の仕事はずっと続けて、

 病気で苦しんでいる人のために研究をやめんといて・・・」

「綾・・・」

綾は急に抱きしめられて、戸惑った。

心臓がドキン、ドキンと鳴っているのがわかった。

けれどもそっと目を閉じた。

少しだけ・・・ただ少しだけ・・・このままでいたかった。

「時間が止まればいいのに・・・」あきらが言った。

次第に夕闇が濃くなり・・・

二人は電気もつけないまま、

薄暗い部屋に一緒にいた。

「今朝は一緒にいられたのに・・・

 綾は遠くに行ってしまうんか

 俺、もっともっと綾のこと知りたい。

 もっともっとエッチもしたい・・・・

 綾の事・・・すっげー大事にしたいと思ってる」

(あきら・・・なんかすごい事言ってくれちゃって) 

あきらの体はかすかに汗の匂いがしていたが

綾はその汗の匂いが大好きだった。

「私・・・・あきらの事すぐに忘れるから。

 あきらも忘れてね」綾は言った。

それは心とは正反対の言葉だった。

「綾は俺が思ってるほど・・・俺のこと・・・思ってはくれてへんのかな」

寂しそうにつぶやく彼の言葉が綾の空っぽの心に響いた。

(そんなわけないやん。

 あきらは私が生まれて初めて愛した人なんやから・・・・

 そんなわけないやん。

 私、今はかっこつけてるけど、後でちょっと後悔しそうだな・・・あーあ)

「もう、帰るわ・・・・あきら明日仕事でしょう。

 それに・・・・病院も・・・・」

綾は引きとめようとするあきらを振り切るように

部屋を出た・・・。

部屋を出た途端・・・・

あきらの手の感触を思い出した。

あきらの汗の匂いを思い出した。

あきらの・・・悲しそうな瞳や

あきらの泣き顔を思い出した・・・・。

あきらの手を離した途端・・・綾の手はあきらの手を

恋しがっていた。

綾は急にあふれ出る涙を抑えることは出来なかった。

そのまま・・・・人通りのあまりない道を

涙を流したまま歩いていて、

急に腕をつかまれた。

振り返ると・・・

あきらがそこに立っていた。

優しい目をして微笑んでいる。

「綾・・・・嘘つくな」

「なによ・・・」

「海外行くって・・・・嘘やな・・・」

「なんで、嘘つく必要があるんよ・・・」

「俺・・・・気付いた。海外行くっていうのは嘘やろ。

 綾・・・・逃げるな。

 俺から逃げるな。

 俺ももう逃げないから・・・。

 俺は綾と一緒にたたかうよ・・・・」

あきらはそう言って、力いっぱい綾を抱きしめていた。

「もう、離さへん・・・・どこにも行くな。ずっとそばにおって。

 お願い」

綾は涙でぐしょぐしょに濡れた顔をあきらのシャツに埋めたまま

まだ泣きじゃくっていた。                  

 

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グレープシードオイル 28・最終回・・・・メイちゃん宅にて

時は流れて、2009年。メイちゃん宅です。

「ねえねえ、綾ちゃん、それからどうなったん?」

「ん?あきら?・・・私がその3ヵ月後に海外協力隊に

 行ったでしょ。それから、ちょっと連絡できなくて・・・」

「それで?」

「それで・・・あきらとはそれっきり会ってないねん」

「えぇ・・・じゃあ、あすかさんはどうなったん?」

「あすかさんのお母さんが1年半後の亡くなったんやって。

 あすかさんから手紙もらった」

「あきらさんとあすかさんは付き合ったん?」

「どうやろ。ようわからへんわ。

 あ・・・なんでこんな話になったんやった?」

「みんなで昔の彼氏の話してたんやん。

 でも綾ちゃんの話はちょっと悲しいよね」

みるとメイちゃんが涙ぐんでいた。

冷静なマリちゃんは座ったままこっちをみて微笑んでいる。

「綾ちゃんちに行ったら、見たことないような油置いてるよね」

「ああ、あれ。実はあれがグレープシードオイルやねん・・・。

 みんなにもあれで料理作ったことあるし」

「なんで、今でも使ってんの?」メイちゃんが涙ながらに聞いてくる。

か、可愛い。

「それはね、あきらのこと・・・

 嫌いになって別れたわけではないから。

 なんとなく・・・ずーーーっと使ってるの。

 まあもうこうなったら、惰性かなあ。

 あきらに今さら会いたいとか思わないけど・・・。

 グレープシードオイルだけは・・・ね」

(いや、本当はどうかな。あきらに会ってみたいかもしれない)

「ふうん・・・そっかぁ。なんかわかんないな。

 なんで連絡取らなかったの?

 あきらさんのこと

 今でも好きやったりする?」

「だんないるけど・・・?」

まりちゃんが言った・・・「それとこれとは話が違うよね」

私は曖昧に笑った。

あきらに連絡かあ。

タイミングを逃してしまったんだなあ。

「ところでね、この話には続きがあるねん・・・聞きたい?」

「聞きたい」「聞きたい・・・」と二人。

「あきらを最近、京都で見かけてん・・・・」

「うっそーそれで?」

「うん。あのね、少し離れたところから見てて・・・

 それで、後をつけて行ったの」

「えぇ・・・マジで?」

「うん。探偵みたいでしょ?・・・そしたら地下鉄乗って・・・

 あきらは昔住んでた下宿に入って行ったの」

 それがね、結婚指輪はしてなくて、服装もジーンズにパーカーで

 なんか30代半ばには見えなかった」

「ええ・・・それで?」

「それで・・・そのアパートはね、

 上品なおばあさんが大家さんで・・

 でもその人は亡くなってて、

 娘さんが後を継いでたの。

 私、その娘さんに話を聞いたの」

「うんうん・・・それから?」

「ああ、ちょっと話が飛ぶけど・・・いいかな?

 また別の日に映画を見ようと思って、

 一人で三条に出かけたん。

 そしたら、昔っからある画材屋さんの前を通ってね、

 店先にある古い絵葉書を見ててん。

 そしたら、綾・・って名前を呼ばれた気がして」

みんなは真剣に聞いてくれている。

「振り向いたけど、誰もいいひんし・・・気のせいかと思って

 また見てたら、今度は棚の方から

 <綾>って呼ぶ声がして・・・

 棚と棚の間をのぞくとそこからひょっこりと

 こっちを見てる顔があったの」

「うん・・・」

「それは紛れもなく、あきらだったんだけど、

 昔のまんまだった。

 私ね、大家さんの娘さんに話を聞いたって言ったでしょ?

 あのね・・・あの日妙に胸騒ぎを覚えて・・・

 そしたら、娘さんが言ったの。

 あきらとあすかさんって5年ほど前に自動車事故で・・・・・」

「きゃあーーーやめて、やめてーーー」

「ホラーになってるぅ」

私「なあーーーーんて・・・・ね」

「もぉーーーー綾ちゃん、怖すぎ」

「嘘でしょ?」

「うそ、うそ・・・」と私。

「どこまで本当の話やったん?」

「さあ、どこまででしょう・・・」

「あっ、もう幼稚園のお迎えの時間やん・・・」とマリちゃん。

「お願い・・・これだけ教えて。あきらさんは生きてるの?」

「うん・・・・多分ね」

「あ、もう一つ教えて!!」

「あのさ、真由とコウちゃんはどうなったん?」

「あはは・・・・その話はまた今度ゆっくりね」

私達は幼稚園に向かって走った。

                  グレープシードオイル<おわり>         

 

作者あとがき。

今家で引きこもって幼稚園のお仕事中です。

慣れないワード君と格闘中。

今朝はお掃除当番で、近所のおじいさんと

戦っているため(笑)朝5時に起きました。

多分、今夜はバタンのパターンです!!

今夜、アップできないと思い、

最終回アップしました。

言葉足らずで申し訳ありません・・・。

ひとまず、ここで終わりで。

あきらとあすかさんについては後日談を。

真由とコウちゃんの怪しい話は

別口で・・・書くつもりです。

あきらさんを急に置いていく所までで

2009年にワープして

終わってしまってごめんなさい。

置いてゆく女と残る男・・・・

残される方が絶対に辛いんですよね。

うーーむ。

かなりの課題を残しての終わりになりました。

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グレープシードオイル 27・朝焼け

その夜、あきらと私は海の近くにある国民宿舎に泊まった。

              ☆

でも・・・実は昼間に灯台まで泳いだこともあって

夜はぐっすり眠ってしまった。

あきらは相当疲れていたのだと思う・・・。

私は明け方目が覚めてしまった。

部屋の壁時計の針は4時を過ぎたことろだった。

和室に敷かれた布団の上でぐっすりと眠るあきら・・・・。

タオルケットを蹴飛ばしている。

宿の浴衣の裾ははだけて、足が見えていた。

これから私がしようとしていることは・・・最低な事?

私は窓際に置いてある、籐の椅子に一人腰をかけて

眠るあきらの姿を眺めていた。

              ☆

少しして、

「ん・・・ん・・・・ん。・・・あや・・・」

あきらは寝ぼけているのか私の名前を呼んだ。

こういう時って本当に嬉しいと感じる。

眠っていても私の事を覚えていてくれてるってことだから。

あきらは布団の隣をばんばんと叩いて・・・

どうやら私を探しているようだった。

私は布団に戻り、あきらに背中を向けて横になった。

そのまま、あきらは私の肩から腕を回した。

あきらはまだ眠っているのだろうか。

そのまま後ろからぎゅっと抱きしめてきたのだった。

この姿勢で抱きしめられたら・・・

私は一体どうしたらいいのだろう。

胸がドキン、ドキンと鳴るのがわかった。

「あきら・・・起きてるん?」

耳の辺りに顔を押し付ける。

くすぐったい・・・。

あきらが首筋にキスをしてきた。

ああ、こういう時、宿の浴衣とはなんと無防備な服装だろうか。

いとも簡単に脱げてしまうではないの。

私はあっとい言う間に下着一枚になってしまった。

「あきら・・・あの・・・あのね・・・・初めてやから・・・

 ちょっと怖いし・・・・」

あきらはまっすぐな目で私を見る。

「俺も怖いよ・・・・」

あきらは静かにそう言った。   

                             

             ☆

             ☆

             ☆

             ☆             

 私達は波の音を聞きながら初めて一つになった・・・・。

「あきら・・・・昨日の約束覚えてる?」

「灯台までどっちが先に泳ぎ着くか・・・ってこと?

 覚えてるよ」

あきらは腕枕をしてくれながら

幸せそうな顔をしている。

「私ね・・・しばらく遠くに行っちゃうけど・・・

 行かせてよね」

「え?」

あきらの顔は一瞬こわばった。

私が何を言ってるのか理解できないといった顔だった。

「もう少し、詳しく話してよ」

「うん・・・あのね、ずっと前から行きたいと思ってたところがあって。

 でもずっと決心つかへんかった。

 でもあきらに会って、あきらが好きな研究してる姿を見て

 いいなあって思って」

「それで?」

「あきらが決心させてくれたの」

「綾・・・・どこに行くつもり?」

「カナリア諸島のラスパルマスっていう島」

「・・・・・それってどこ?」

「アフリカの近く」

「どのくらい行くの?」

「二年」

「・・・・なんでなん?綾」

あきらは私の名前を呼んだ・・。

泣きそうな声だった。

              ☆

私はかなり前から海外で働いてみたいと思っていた。

思っていたけど、それを行動に移せなかった。

あきらに会って、好きな研究をしているあきらを見て・・・

やっと決心がついたのだった。

だから私が海外に行く事と、

あすかさんのこととは無関係だ・・・・と思う。

事故はたまたま起きてしまった・・・のだ。

そして、ちょうどあきらに会えない頃、

私は大阪で試験を受けて

合格した。

つい先日、面接を受けてきたのだった・・・。

あきらに無理を言って、海に来たのは・・・

あきらにこのことを言いたかったから。

大切な思い出をひとつ残しておきたかったから。

窓の外には美しい朝焼けが広がっていた。 

ごめん。あきら・・・。

あきらにとってはザンコクだったよね。

でもそうするしかなかったんだ。

私にはそれがベストだと思えた。

私の勝手な夢を貫き通すこと・・・

それで、私がいなくなって、

あきらが自分の道を

自分で決めてくれたら・・・。

ごめんね。

本当にごめん。    

              

              

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グレープシードオイル 26・灯台

「じゃあ、行くよ。用意、ドン!」

私は負けない自信はあった。

あきらには言ってなかったことだけれど、

私は小学生の頃から、水泳だけは得意で、

県大会にも出た事があった。

中学、高校と水泳部だった・・・・。

ここは海だから・・・クロールは無理か・・。

そう思って、あきらを見ると・・・・

あきらはクロール。

じゃあ・・・と私もクロールで泳いだ。

灯台に着いた。

           ☆

「あきら・・・・」

あきらはまだ着いていない。

程なくして、あきらが泳ぎ着いた。

私達は灯台の足場になっているコンクリートの上に上がった。

あきらは手を貸してくれた。

「ああーーー負けた。お前、河童やろ?」

「まあね・・」

私達は並んで座った。

「賭けは俺の負け。なんでも綾の言う事聞くよ」

「そう?じゃあ・・・・・ちょっと目をつむってくれる?」

あきらは目をつむった。

私はあきらの唇にキスをした。

海水の味がして、ちょっとしょっぱかった。

「ん・・・」

あきらは目を開けた。

「綾・・・・」

あきらはぎゅっと濡れた体のまま

私を抱きしめた。

初めて見たあきらの上半身は

適度に引き締まっていた。

マッチョではなかった・・・。

「綾・・・俺、ずっと考えとった。俺やっぱ、

 お前と一緒にいたい。綾以外は考えられへん」

あきらの言葉に胸がキュンとした。

嬉しかった・・・。

でも、私の心は・・・

「あきら・・・あの・・・・」

言いかけてちょっと涙が出てきた。

「あのね・・・病院で聞いてしもた・・・あすかさんのお母さんの話」

「うん・・・・・」

「それで、あきらはあすかさんと結ばれる運命なのかな・・・・って。

 思った」

「なんやそれ」

「でも・・・ある時、あすかさんの気持ちわかってしもた。

 私もあきらの事好きやから・・・・あすかさんの気持ち

 わかるねん・・・・」

「ほんなら俺の気持ちはどうなるん?」

「あきらの気持ちかあ・・・・」

確かに、私は自分のことばかり考えていたかもしれない。

あきらの気持ち・・・。

「あすかさんは一緒に仕事してきた、仲間みたいなもん

 綾は俺の彼女やろ・・・・。俺の可愛い彼女やろ」

あきらは私の体をぎゅーーっと抱きしめた。

「く、苦しい・・・・」

あきらはそのまま私を押し倒した・・・・。

そのまま私に体を預けてきたけど・・・

でも下はコンクリート。

「ちょちょちょちょちょ・・・・・っと・・・・待って、待って、まって」

私は慌てた。

「無理、無理・・・ちょっと痛い」

あきらを起こして、自分も起きた。

「もう・・・何考えてんの」

「何って、綾のこと・・・・だいたい水着って・・・

 露出多いし・・・」

「何?」

「あの・・・・その・・・・」

「エッチ!しかも、ここ灯台やし・・・

 また向こうまで泳いで戻るんよね?」

「ああ、帰りはこっちから帰ると、近いねん・・・」

あきらに言われた方向を見ると

もうすぐそこに対岸が見えていた。

え?対岸?

でも、自転車や荷物が来た場所に残っている。

「大丈夫。近道があるし」

そう言われて、あきらについて行く。

さっきの半分くらいの距離で岸に着いた。

「え?こんなに近いの?」

「そ。それで、このトンネルを抜ると、はじめの海岸に戻れる」

なんか魔法にかけられているような気がした。

この辺りの地形が全くわからないのでついていくしかない

のだけど。

「さ、元の場所に来たよ」

「え・・・ほんと。さっきの場所・・・」

私はすぐにサンダルを履いた。

そして、ワンピースを着た。

あきらは上からTシャツを着た。

「自転車返さないとね」

「綾、今日はこっちに泊まれるよね?」

「うーーーむ・・・・」

「一緒に泊まれるよね・・・・」

ああ、また変に胸がドキドキする。

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グレープシードオイル 25・深緑色の海そして空

「あきら・・・ちゃんと目つぶっといてな・・・」

私はそう言うと、そーーーーっと、そーーーーーっと

砂の上を後ずさりして、そのまま海に入った。

もちろん水着は着たまま・・・。

「あ・き・ら・・・・もういいよぉーーーー」

かくれんぼのように言ってみる。

「えっ?え?」

あきらはくるっと振り向いた。

「えぇーーー?いつの間に?<ぼんさんが屁をこいた>

 みたいやん・・・」注;ぼんさんが屁をこいた・・は全国的に

 有名な子どもの遊びですが、地方によって呼び方は違います。

「あはははは・・・・やっぱ、小学生やん・・・・」

あきらはちょっと恥ずかしそうな顔をした。

「ちょっと待って」そう言って、Tシャツを脱いで

急いで海に入ってきた。

後で気付いたことだけど、

あきらはジーンズのまま海に入っていた。

             ☆

「あきら・・・ちなみに関西では、

 ぼんさんが屁をこいた・・・って言うけど、

 うちの田舎では、<インド人のくーろんぼ>って言うの。

「へえ・・・そうなんや。んで・・・なんでもう海に入ってんの?」

「あははは・・・・・水着なんて脱げるわけないやん・・・・

 だいたい、なんで裸で泳ごうとか言うの?」

「うーーーむ、それは・・・・・」

あきらはちょっと真面目に考えて、

それからゆっくり話し出した。

「あのな・・・俺、小学生の時、ここで一回海パンが脱げて・・・

 どうしようもない状況になったんや。

 ま、結局潜って探して見つけてんけど」

「ふうん・・・この海に・・・潜ったん?」

「そう。まあ、こんな色やし・・・大変やったけどな」

そうそう、ここの海は深い緑色をしていて、 

こんなに近い距離でもあきらの体はほとんど見えなかった。

「ここの海はだいたいいっつもこの色や。

 水が汚いんちゃうで・・・・。こういう色なんや」

確かに、水は汚いわけではない。

すぐ近くに魚もいるし・・・海藻もある。

砂浜には綺麗な貝殻もたくさん落ちていた。

瀬戸内海だからかもしれない。潮のせい?

「ん、それで・・・・その話の続きは?」

「おお・・・でもそん時感じてん。

 海を裸で泳ぐって・・・なんかすっげーーー

 気持ちいいって」

「ふうーーん・・・・」

「なんかそれを思い出してさ・・・。

 なんか・・ぜーーんぶからすっげー解放された感じやった。

 なーーーんにもない。そんな感じ。

 人間は海から生まれた・・・ってそう思ったよ」

「うん、うん・・・」

「それを綾にも感じて欲しかったんや」

あきらの話はつじつまが合っていたし

話を聞いているうちに、

すごく自分も「母なる海」を感じてみたい気がした。

「あーーーーーっ」

「なに?」

「俺、ジーパン・・・・はいてるやん・・・」

「もう、気付くでしょ?普通」

「バカっ」

「バカは失礼やろ・・・・口悪いな」

あきらは仕方なく、一度海辺に戻って

海水パンツに着替えると言った。

あきらが大きな岩の陰で着替える間、

私は一人で海に浮かんでいた。

もうすぐ夏も終わりが来そうな予感の空。

飛行機雲が一筋見える。

大きな入道雲は空との境界を際立たせている。

「夏もちょっとで終わりだなあ・・・・」

私は一人で海に浮かびながら考えていた。

            ☆              

それに・・・・きっともう二度とあきらと海に来る事はないだろう。

一生ないんだなあ・・・。

きっともう会えないんだなあ・・・これが。

私はここであきらと別れる決心をしていた。

そんなこと、出来るんだろうか。

あきらと一緒にいるとなにも飾らなくていい。

すごく自然な感じ。

でも・・・

全てがもう最後だと思うと

あきらと一緒の時間の全てがとても愛しく

大切でかけがえのないもののように感じた。

そう思うと涙が出てきた。

              ☆

あきらが戻ってきた。

「綾・・・・どうかした?もしかして泣いてる?」

「まっさかあ・・・ちょっと海水が目に入った~しみるぅ」

ごしごしこする振りをした・・・。

「あきら・・・解放かあ・・・でもなあ・・・やっぱ、ちょっとなあ・・・・

 客観的に見るとすっげー恥ずかしいよね」

「俺と一緒でも?」

「オレと一緒だからです」

「何にも見えなくても?」

「うん・・・・見えなくても」

              ☆

「ね、あきら・・・・じゃあさ、賭けしよっか?」

「賭け?」

「そ。あそこの灯台まで先に泳ぎ着いた方が

 相手の言う事・・・聞くの」

「よし・・・・」

☆       ☆       ☆        ☆

作者より;前回の記事はちょっと無謀でしたか?

海で裸で泳ぐっていうのはありえませんよね。

外国のヌードビーチかって!

(↑なんかで聞いたことあります)

でも、ここは日本ですし・・・。

瀬戸内海沿いの小さな海辺ですし。

でも、これは本当の話ですが、

瀬戸内海はそこ特有の色でして、

私にはいつも深い緑色に見えます・・・。

入ってみてわかりますが、

ほとんど海の中は見えません。

だから顔だけ見えてる感じでしょうか。

今回あきらが綾を案内した海辺は実際に

これに近い場所があります。

ちょっと入組んだ小さい入り江になっていて、

地元の人しか知らないので・・・

まるで、貸しきりの海のようです。

そして・・・・この海の回ではあきらと綾の気持ちには

決定的な違いがあります。

海の回、もう少し時間を頂いて

描けたらと思います。

読んで下さっている方、本当にありがとう!!

まあ、実在の人物とは一切関係ありませんので。

「そんなアホな」とツッコミ入れつつ

読んでいただけたら、幸いです。

ちなみにネタばれになりますが・・・

綾は中学・高校と水泳部のキャプテンです(笑)

さて・・・賭けはどうなりますか・・・・。

それは次回のお楽しみということで・・・。

なんか、紙芝居みたいになってます?

幼稚園かっ!!!!

最後になりましたが、私の地元では<ぼんさんが屁をこいた>は

<インド人のくろんぼ>と言いましたが、今の子ども達が

どう言っているのかはわかりません。

昔の子どもの遊びですので、

私個人としては差別的な意味合いは

含んでいませんが

もしこの表現を不適切もしくは不快に

感じる方がおられましたら

ここにお詫び致します。

  

 

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グレープシードオイル 24・二人だけの海で

京都駅から青春18切符で岡山駅まで来た。

そこからはバスに乗った。

山のそばを通ったり、海沿いの町の景色を見ながら、

玉野という小さな町に着いた。

玉野からもう一度ローカル線のバスに乗り換えた。

あきらがとあるバス停で「ここ」と言ったので

本当に辺鄙なところでバスを降りた。

              ☆

アスファルトには陽炎が立っている。

海沿いの町特有の磯の香りがしていた。

「ふうっ・・・夏だねえ」

私は麦わらの帽子を被り直しながら言った。

「うん・・・・」

京都を出るまでにあきらと約束をしていた。

今日だけは、全部忘れて、

出会った頃の二人のように・・・過ごそうと。

今日だけはあすかさんの事も忘れて欲しかった。

暑い道を並んで歩いた。

あきらが道の先を指した。

「確かあそこにじいちゃんの友達がやってる

 古い自転車屋があって・・・。

 自転車、貸してくれるんだ」

よく見ると、もう字が読めないくらいの古い看板が

ある家があった。

あきらは懐かしそうに言った。

ずっと前に見た・・・悪戯っぽい小学生のような顔に戻っている。

私はとても嬉しかった。

もうずいぶん、そんなあきらの顔を見ていない。

その自転車屋はおじいちゃんの息子さんがついでいた。

おじいちゃんはもう数年前に亡くなっていた。

「さ、どうぞ・・・。1台でええんかのう?

 そのお嬢さんは後ろに乗ってくんか。

 ま、大丈夫じゃろう。

 これ、夕方まで貸すけえ・・・。

 川西さんとこの由紀ちゃん(あきらのお母さん?)の

 坊ちゃんなら特別じゃあ。

 お金はいらんけえのう・・・」そう言って、

そのおじさんは真っ赤な自転車を貸してくれた。

「可愛いね・・・真っ赤なチャリ」

あきらはぺこりとお辞儀をすると、

やった・・・という喜びの顔をしてこっちを見た。

ほんとに・・・もう。

            ☆

あきらは本当に嬉しそうに自転車を漕ぎ出した。

「綾、ほら・・・後ろ乗って。

 ここ、持って」

あきらは自分のわき腹を持つように言った。

「今から行くとこは、地元の漁師さんしか知らんとこや。

 細い道も抜けるし、ちゃんとつかまって・・・・な」

私はあきらにぎゅっとつかまった。

「あは・・・」あきらはちょっと笑った。

あきらの背中はお日様と汗の匂いがした。

とても気持ちのいい香りだった。

自転車は細い道を抜けて、

そして山のそばを通って・・・・

岩をくりぬいたような

自転車がやっと通れるような

細いトンネルを抜けた。

風が心地いい・・・。

「もうすぐ着くし・・・」

それからすぐに目の前に海岸が開けた。

「わあっ・・・・きれい」

海がきらきらしている。

遠くに灯台が見える・・・。

私達は自転車を降りた。

「着いた・・・」

「あきらは、こんな海を知ってたんやね・・・」

「ん・・・死んだじいちゃんは若い頃漁師やった。

 小さい頃はいっつも休みになると

 ここへ来た・・・」

「そう・・・」

(小学生の頃のあきらに会ってみたかったなぁ)

「綾・・・・泳ぐか?」

私は服の下に水着を着ていた。

玉野に着いた時に、トイレで着替えたのだった。

セパレーツなので・・・大丈夫。

白地にさくらんぼの柄のお気に入りの水着だった。

でも、あきらに水着姿を見られるのはちょっと恥ずかしい。

「ねえ、ちょっとあっち向いてて」

「なんで?」

「誰もいないよ・・・」

「あかんて・・・あっち向いてて」

私はあきらをくるっと後ろに向けると

チェック柄のワンピースを脱いだ。

あきらはまだちゃんと後ろを向いている。

私はバスタオルを羽織った。

「はい・・・できた」

あきらはくるっと振り向いた。

ちょっとだけこっちを見て・・・

恥ずかしそうに・・・よそを見た。

「あきらは・・・着替えないの?」

「なあ・・・綾・・・・水着脱いで泳ご・・・・」

「え??マジ・・・」

「うん・・・マジ。

 絶対に誰も来ないし・・・・」

             ☆

「わかった・・・じゃ、あっち向いてて」

 

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グレープシードオイル 23・私を海に連れて行って

あきらとは会えない日が続いていた。

会えなくなってから、今までどれだけ

あきらの事を好きだったか、

自分が幸せだったのかという事が・・・・わかった。

今頃になって気付くなんて私はバカだ。

家でグレープシードオイルを使って料理はしたけれど、

あきらに報告しに行くことは出来ない。

空しかった。

会いたいなら会いに行けばいい・・そう思う。

そう・・・私だって、会いに行きたい。

でも・・・もしも会ったら絶対にもう離れたくない、

そう思うに違いない。

そう・・・だから会いたいけど、会いに行けない・・・・。

あきらは仕事と病院のお見舞いとで忙しいだろう。

私は大学の勉強とバイトに無駄に打ち込む・・・。

無駄に。

自分をだましている・・・。

そんな感じだった。

でも、あきらとはお互いに時間を見つけて、電話で話した。

毎日ではないけど。

あすかさんの様子も毎回聞いた。

でも・・・

電話で話していてもどうしてもそこに以前とは違う

何かがあって・・・

それが手に刺さったとげのように

いつも心のどこかを「チクン」と刺している。

もう、以前のように無防備にあきらと話すことが出来ない。

あきらに・・・好きだと伝えたいのに伝えられない。

このままじゃいけない。

あきらにとっても・・・このままではいけない。

私はこの数日間である覚悟を決めていた。

              ☆ 

私はある日の午前中あすかさんのお見舞いに行った。

あすかさんは真っ白の病室で一人眠っていた。

髪の毛は以前より伸びていた。

あすかさんは美人だな・・・と思う。

足はまだ、固定していた。

少しの間、彼女の眠った横顔を見つめて、

私は病室を出た。

持っていった花だけ生けて。

かすかな香りのする黄色いフリージア。

              ☆

今、あすかさんが起きても私は一体何を話すのだろう。

あすかさんに何を言えるだろう。

彼女は大きな傷を体に負っているのだ・・・。

でも・・・

ここにも心に大きな傷を負ったものがいる。

あきら・・・

そして、私。

私は運命なんて言葉は大嫌いだ。

でも、今自分達の身に起きていることはもう・・・

自分達でどうにかできるような

そういう問題ではないような気がしていた。

何か見えない大きな力によって

どこかに導かれているような気がしていた。

               ☆

私はあきらに電話をかけた。

「あきら、一日でいいの・・・・

 私を海に連れて行って。

 大事な話があるから・・・お願い」

あきらはほんの一瞬戸惑っていた。

「・・・わかった・・・俺の知ってる海でいい?」

あきらの声は優しく耳に響く。

「うん・・・ありがとう・・・」

あきらの声を聞くだけで涙があふれそうになった。

それからすぐに、

あきらはあすかさんのお母さんに2日ほどは病院に来れないと

伝えたそうだ。

あきらは私と一緒に出かけると言ったと言った。

その時、あすかさんのお母さんは

「本当にすみません・・。

 もちろんです。

 綾さんとあきらさんの時間、こっちが無理なお願いを

 して、あの子のそばにいてもらってるんですから・・・」

と細い小さい背中を深々と折り曲げて

頭を下げたそうだ。

こういう時にドラマに出てくる嫌な人だったら、

「もう彼女には会わないで・・・」とか言ったりするのかな。

いっそのこと、本当に意地悪で嫌な人だったら

よかったのに。

あすかさんのお母さんは本当に優しくて、気持ちが綺麗で・・・

自分の体も大変なはずなのに、

娘のためにいつも付き添って

かいがいしく世話をしている。

時にはあすかさんを励ましたり、叱ったりしている・・・。

こんなに優しくて、素晴らしい人をきっと誰も

嫌いになることなんて出来ない。

出来ないよ。

だから、余計に苦しいの。

              ☆

<病院にて>

同じ日、あきらは病院であすかさんに会って、

私と海に行くと伝えた。

「あきら君、毎日毎日・・・ごめんね。

 綾ちゃんに会ってるの?

 私のせいで会ってないとか・・・ 

 あのね、私そんなん、嫌だから」

「あすかさん・・・・」

あきらは困った顔をしていたのだと思う。

「あきら君、今まで通り綾ちゃんと付き合いなさい。

 あきら君が綾ちゃんのこと大切に思ってるの

 私が知らないとでも思ってんの。

 だてにずっと一緒に研究してないわ・・・このバカ」

「バカって。きついな」

あきらは苦笑した・・・そして続けた。

「でも・・・あすかさんのお母さんが・・・」

「ああ、ママの病気の事?

 私、知ってるよ。ママの病気・・・。

 もうそんなに長くは生きられないって・・聞いたよ。

 私は全部知っておきたいの。

 絶対に告知はして欲しい方なの。

 だから・・・」

「だから?」

「自分の怪我のこともはっきり先生に聞いたよ」

「・・・・・そうですか」

「俺はどうしたらいいんですか?」

「どうしたらって?なに言ってんの?・・・綾ちゃんと今まで通り

 付き合いなさい。・・・言ったでしょ。

 わたし、あきら君に何かしてもらおうとか思ってないし」

あきらはその時、あすかさんの目を見た。

でも・・・その強気な言葉の裏に潜む、

弱気な感情をあきらは見抜いていた。

それも、いつも強がってしまう性格のあすかと一緒に仕事をしていたからこそ

見えてしまうのだった。

「あきら君、じゃあ、こうしてくれる?」

「ママが生きてる間は私の婚約者になったふりをしてくれる?

 ふりだけでいいの。ママを安心させるために・・・」

あきらは何も言わなかった。

言えなかった。

あきらは「ふり」は出来ない人間だった。

人をだましたり、嘘はつけない。

「あの・・・あすかさんはそれでいいんですか?」

「え?」

「俺、ふりは出来ないんです・・・。ごめんなさい」

「そっかーーーじゃあ、本当にあきら君に甘えちゃおっかな・・・

 なーんてね。冗談、冗談」

               ☆

「あすかさん、俺、明日綾と海に行って来ます」

あきらは伝えた。

「うん・・・。じゃあちょっとの間、会えないね」

つとめて明るく振舞っていたけれど、

あすかさんは少し寂しそうだった。

 

 

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グレープシードオイル 22・これも運命

あすかさんの6時間にも及ぶ大手術は終わった。

翌朝、病院にあすかさんのお母さんが来た。

細い綺麗な女の人だった。

でも体の線は・・・・

白いブラウスの上に羽織ったカーディガンの上からでも

わかるほど・・・細かった。

あすかさんのお母さんは病院の人に呼ばれて、

これからあすかさんの担当になるという

お医者さんの所に行った。

あすかさんは一旦ICUに入り面会は出来なかった。

あきらは一睡もしていない。

言葉も少ない。

いつもとは全く別人のようだった。

私は出会った時の面白いあきらが懐かしく・・・・

それを遠い昔のように感じていた。

廊下にいてもどうしようもないので、

私はあきらと一緒に喫茶室の一番すみっこに座り、

コーヒーを飲んだ。

苦い。

              ☆

そこへあすかさんのお母さんが来た。

先生との話が終わったらしい。

              ☆

「あの・・・・枕木 あきらさんですね」

あきらは「そうです・・」と答えた。

そして、あきらはあすかさんのお母さんに

「すみません・・・・」と謝った。

私の心は痛い。

あきらが悪いの?

でもあすかさんのお母さんは言った。

「こちらこそ、すみません。あなたにご迷惑をかけたのでは

 ありませんか」

あきらは黙っていた。

「それで、あすかさんの容態は・・・」

「先生から説明を受けて来ました。

 左足は骨折しているけど、大怪我ではないそうです。

 ただ・・・・・」

そこまで言って、お母さんは涙ぐんだ。

私はその先はちょっと聞きたくない気がした。

直感で。

「あの・・・内臓を強く打っていて・・・・

 下半身も。その影響で・・・・・

 将来、赤ちゃんが産めなくなる可能性があると、

 言われました」

あきらはうつむいた。

私は「そんな・・・・」と思わず言ってしまった。

              ☆

              ☆ 

              ☆

              ☆

あすかさんの意識も戻り、一般病棟の個室に移ることになった。

あきらは毎日、お見舞いに行っている様だった。

私は・・・・一度行ったきりだった。

なぜか?

病院であすかさんのお母さんがあきらに言っているのを

偶然、聞いてしまったから・・・。

              ☆

「あの子、家に戻ってきたら、いつも枕木さんの話を

 していました。

 今、一緒に研究している同僚ですごくいい人がいると。

 あの子・・・・

 あなたのことを慕っていたんです。

 お願いします。

 どうかあの子を見捨てないでください。

 無理は十分承知です。

 彼女がおられるのも・・・・わかっています・・・でも・・・・」

あきらは一体どんな顔をして聞いているのだろう・・・。

あきらの声は聞こえない。

ただ、あすかさんのお母さんの悲しそうな声が聞こえるだけだった。

「本当にすみません。・・・でも私、病気なんです。

 あの・・・・あの子、天涯孤独の身になってしまうかもしれません・・・」

「え?」あきらは思わず、聞き返したのだろう。

お母さんは言った。

「私・・・お医者さんに後1年・・・・後1年の命だと言われているんです」

私はもう病院に来てはいけないような気がした。

あきらにも少しの間会わないほうがいいような気がしていた。

ただ、いくら考えてみても・・・答えは出ない・・・

迷路に入り込んでいるような気持ちだった。

あきらは・・・・

あきらは・・・

あすかさんと生きていく・・・運命なのかな。

私ではなく。

          

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グレープシードオイル 21・同乗者

あきらの声は暗くて、低くて・・・よく聞こえない。

「え?なに・・?事故ったん?あきら・・・よく聞こえない・・・今どこ?」

「西京都病院・・・・綾、ごめん・・・ほんまにごめん・・・」

「・・・大丈夫?私も今から行くから・・・怪我してるの?

 相手は?」

いまいち要領がつかめない。

こんな電話で話すよりも一刻も早く会いたかった・・・。

胸騒ぎは収まらない。

私は病院に急いだ。

               ☆

病院の夜間救急の受付で聞くと、あきらのいる場所を教えてくれた。

手術室の前の広い廊下の椅子にあきらはポツンと

腰をかけていた。

声をかけるのもためらわれるほど・・・・

その横顔は悲しそうに見えた。

「あきら・・・・」

呼ぶと、あきらはこちらを見た。

「あ・・・・あや・・・・・」

あきらの瞳は悲しみでいっぱいだった。

でも私の顔を見ると、

親に捨てられた子犬がまるで親に会えた時のように

一瞬、輝いた。

しかし、その輝きも一瞬で消えた。

「大丈夫?その顔・・・」

右頬に大きなばんそうこうが貼られている。

「これは、かすり傷・・・」

私は肩が触れるくらいあきらのそばに座った。

夏なのに、廊下は寒いくらい・・・ひんやりしている。

              ☆

あきらはぽつり、ぽつりと話し始めた。

「佐々木さん・・・後ろに乗せてたんや」

「え?佐々木さんってあの仕事一緒のあすかさん?」

「ん、どうしても・・・って頼まれて」

あきらの話はこうだった。

私との祇園祭の約束のために帰る用意をしていたあきらに

やはり会社を出ようとしていた

佐々木あすかが声をかけた。

どうしても急ぐので、最寄の駅までバイクの後ろに乗せて行ってくれ・・・と。

仕方なく、あきらは後ろにあすかを乗せて

最寄駅に向かった。

その途中に・・・

西大路の交差点で

信号無視をして、曲がってきた車と接触して

事故になった・・・・。

あきらはかすり傷だったけれど、

後ろに乗っていたあすかさんは内臓を強く打って、

緊急の手術中だと。

片足も骨折しているかもしれないとのことだった。

              ☆

私は、その佐々木あすかという女性には2度ほど会ったことがある。

初めてあすかさんに会ったのは今からちょうど3ヶ月ほど前だった。

町でたまたま会った女性をあきらは会社の同僚だと紹介してくれた。

一緒にグレープシードオイルの研究をしているそうだ。

ショートカットですらりとしたその女性は

「いやあー可愛いねーー。なんかこう初々しくって。

 あきら君の彼女なんだ。」

あきらは照れながら彼女だと紹介してくれた。

彼女は26歳だと聞いた。

(でも・・・・そのあすかさんをバイクの後ろに乗せてあげたんだ。

 私と会うはずの日に・・・・)

「あや・・・ごめん。ほんと、ごめん・・・・・な」

(あきらは誰にでも優しいもんね。

きっと、急いでいたあすかさんにそこまで乗せてってと言われて

断われなかったんだよね。

でも正直、そこは断わって欲しかったなぁ・・・

なんで、後ろに乗ってたのがあすかさんだったんだろう・・・・)

              ☆

あすかさんは母一人、娘一人だった。

少し遠くに住んでいて、今体調を壊している

あすかさんのお母さんは明日の朝病院に来るそうだ。

あきらと一緒に病院の廊下で手術が終わるのを待つ事にした・・・

でも私はいたたまれない気持ちだった。

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グレープシードオイル ⑳デートの日のアクシデント

それからあきらと私は何度か会った。

別にはっきりと「付き合おう」と言われたわけではない。

もちろんまだエッチはしていない。

初めての出会いが合コンで、しかも酔っ払ってあきらの家に

泊めてもらうという恐ろしい展開だったために、

それからは穏やかに過ごしていた。

私は家で料理を作る時にはグレープシードオイルを

必ず使って、あきらにそれを報告した。

体重も少しずつ減っていった。

あきらは私のことをこの時には「綾」と呼んでいた。

私は「あきら」と呼んでいた。

「綾、体重減ったんやったら、よかったやろ?」

「うん・・・ちょっと嬉しかった」

「スタイル、ちょっと良くなったんちゃう?」

そう言ってあきらは私の顔に自分の顔をすうっと

近づけてきたので、そのまま小鳥のようにキスをした。

今度はおでこをこつんと当てて来た。

そして、私の目をじっと覗き込む・・・。

何もかも見透かされてしまいそうな・・・あきらの目。

あきらはきっとその先もしたいに違いないというのは

わかっていたけど、私にはまだ心の準備は出来ていなかった。

あきらはちょっと拗ねるように、口を尖らせていた。

「あは・・・ごめんね。もうちょっとだけ待って」

「うん・・・。綾がいいって言うまで待つよ」

そう言いながら、きっと心の中は違うんだろうなあ・・・。

最近、あきらは会うと必ず、キスしてくるから。

でも私はそんなあきらが大好きだった。

本当はあきらならいいかなあという思いもあったのだけれど、

でも・・・・やっぱりまだ怖い。

私には未知の世界だった。

               ☆

私は遅くなっても、あきらの部屋には泊まらない。

それは何て言うか一つのけじめでもあったし

もしも泊まってしまったら、もう何が起きても

お互いに抑えられないような・・・気がしていたから。

もしも、そうなるなら・・・少しだけイベントとか

何か理由をつけて、「思い切れーっ」みたいな気持ちもあった。

例えば友達は、クリスマスだから・・とか

誕生日だから・・・とか、一緒に旅行行って・・・とか

なんかそういうこと・・・。

でも、うちの両親は田舎にいるので、

私を全面的に信じてくれているのに、悪いなあという気持ちが

全く無いわけではなかった。

ごめんね・・・。

               ☆

でもついにあきらと私は今度の祇園祭りの宵山の日に

一緒に浴衣を着て、お祭りを見て、

それからその日を一緒に過ごそう・・・と約束した。

ああ・・・その時が来るのかなあ・・・と

心臓はドキドキしていた。

なにか、あきらのことを考えるだけで

心臓がおかしな動きをした。

妙にドキドキするのだ。

私・・・ちょっとおかしいのかな。

            ☆

宵山の日が来た。

あきらはこの日が金曜日なので、

普通に仕事があり、

夜の7時に待ち合わせをしていた。

あきらは仕事が終わったら、一度電話をくれる事になっていた。

伯母に浴衣を着せてもらって、

友達と行くからと、仲の良い友達の名前を出して、

アリバイ工作の準備までしていた・・・。

バッグには着替えの洋服まで用意した。

              ☆

夜の7時になっても電話が来なかった。

もしかしたら、仕事が長引いているのかもしれない。

私はじっと待っていた。

8時半になり・・・その時、電話が鳴った。

「はい、藤川です・・・」

「もしもし・・・枕木・・あきらです・・・」今日に限って、枕木なんて

改まって、苗字まで名乗ってる。

でも、あきらの声はいつもとは全然違っていた。

低くて、全く元気が無い。

ちょっと嫌な感じがした。

「あきら・・・大丈夫?どうかした?」

「あ・・・あや・・・それが・・・・」

「あきら・・・どうしたの?何かあった?・・・言ってみて・・・」

「バイクで事故った・・・・」

「え?」

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