カテゴリー「短編集」の記事

読まない方がいいですよ的短編集

ある真冬の日に起きた出来事   (下)

マスターという、かつては毎日そう呼ばれていた響きに
懐かしさと気恥ずかしさが入り混じったような妙な気持ちになった。

それは、幼馴染に突然会って、今はもう誰も呼ぶことのない
かつて呼ばれていた名前で呼ばれたような・・・・そんな感じだった。

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ある真冬の日に起きた出来事   (中)

あの日から毎日私は一体何をどうして生きてきただろう?

妻の居ない家はこんなに広かっただろうか。

白いレースのカーテンも、観葉植物達さえもよそよそしい顔に見える
様な気がした。

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ある真冬の日に起きた出来事 (上)

妻の美代子を昨年の11月末に亡くした。

3年程の闘病の末、眠る様に逝った。

私、山田 稔…70歳は今一人暮らしをしている。

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君に感謝の一日

君に感謝の一日  今朝の事。

小学生の子ども達のお見送りにちょっとそこまで出たつもりが。

5分後に家に戻るとパパは仕事に出たのだろう…車がない。

あれ。一瞬心に違和感が。
んん?コートのポケットは携帯電話のみ。


やってしまった。鍵を忘れた!

パパの携帯を100回鳴らしても出ない。もう一回、もう一回・・・・。

鳴らしつづけるけど、出ない。

家の鍵がどこか開いてないか探す。

雨の中を必死に探す。

探すけどどっこも開いてない。

玄関の扉一枚。
すぐそこに私の鍵はあるのに…。



雨はずんずん降って来る。夜まで待つ?
ムリムリ。今日は歯医者やん。


困り果てて 私は「君」に電話をかけた。

電話の向こうで気の毒そうに聞こえてくる…うん、うんという声。


すっぴんメガネ。コートに長靴。
情けない格好の私を車で拾ってくれた…。

情けなくてありがたくて、泣きそうになる。
                    ・

                    ・

                    ・



一時間後…パパの仕事場に到着。
家の鍵をもらう…。「バーカ」



ホント、 君には感謝の言葉もありません。

ホントにホントにありがとう!

私は今日の事は一生忘れないからね。


ライラックの花のような君に…。

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雨音(短編)

気ぃが付くと・・・もう春もちこうなりましたなあ。

夕方に頬をなでる風はなんか・・・こう・・・

ちょっと温かちゃいますか?

でも・・・もう真夜中。

ふと耳を澄ませば雨音が聞こえてきます。

あんたはん、雨音はお好きですか?

え?うち・・・?

うちは雨が好きです。

春先のやわらかい雨もええけど・・・

冬の寂しい雨も好き。

朝の雨もええけど・・・・真夜中の雨もええなあ・・・。

なんか、雨の日は

自分も雨粒になって、好きな人のところに

飛んで行けそうな気ぃがしませんかぁ・・・・?

今頃何をして、

何を見て、

誰と何をしてはるんやろう・・・・って思たりして・・・

(つまらん、つまらん・・・・何これ・・・つまんなーーーい)

               ☆

綾子は本を閉じた。

友人に一度読んでみて欲しいと言われて、

読み出した本だったがつまらな過ぎた・・・。

もう真夜中である。

もうそろそろ寝なければ・・・明日に差し支えるだろう。

そう思いつつ、寝室のベッドに横たわっているのだが

雨音のせいでなかなか寝付かれない。

綾子はふと・・・・ベッドから起き上がると、

今はほとんど開けたことのない引出しの奥から

一通の手紙を取り出した。

古びた封筒には自分の旧姓が書かれていた。

綾子は一人ベッドに腰をかけ、

中身をそっと取り出した。

懐かしい文字が見える。

自然と笑みがこぼれた・・・・・。

「君の声が無性に聞きたくなり・・・

 でも電話をかける勇気もなく・・・

 ここにペンを執りました。

 君は元気ですか?

 今、何をしていますか?

 時折、君の声が懐かしく

 僕の耳に響いてきます。

 君に会いたい。

 会いたいです。」

綾子はそっとそれをパジャマの胸元にそっと当てて・・・

目を閉じる。

そうすると、昔の日が甦ってくるようだった。

あんなに誰かを好きになって、

何もかも放り出して・・・

自由に笑い、

泣き・・・・愛して・・・・

食べて、飲んで・・・・・

転げまわって・・・・

そんな日がまた来ることがあるだろうか。

いや・・・それはない。

そんなことは綾子にもわかっていたし

あれが若さからくる・・・奔放さだということもわかっていた。

ただ、何かの拍子にふとスイッチが入り、

その手紙を取り出してしまうのである。

綾子はそっと手紙を封筒に戻すと、

また机の引出しの奥にそっとしまいこんだ。

夫は知らないだろう。

手紙の存在も・・・。

綾子の行動も。

それは彼女の秘密だから。

雨音はまだ彼女の耳に届いている。

それでも、彼女は明日の子どもの弁当のために眠る。

眠たくはないけれど・・・そのうち深い眠りに落ちてゆけるだろう。               

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点滴(短編)

小雪の舞う日の午後・・・

タクシーに電話をかけ、

子ども達に留守番をさせ

私は病院に急いだ。

そこは救急もある、この辺りでは大きい病院である。

吉沢先生に頂いた薬も底をついたし、

自己判断で胃薬を飲まなかったために、

胃もおかしくなってしまった。

もう2日間、水分しか摂っていない。

頭は痛いし、

まともに歩けない。

もう、そこに行くしかないと思ったのである。

タクシーが滑るように病院の入り口に着いた。

表の大きな自動ドアに映る情けない自分の姿を見ながら、

ふらふらと、中に吸い込まれていく。

受付で名前を告げ、

誰もいない廊下に通された。

待合の廊下の一番奥に

車椅子に乗った老人が一人うなだれている。

                 ☆

「藤川さん・・・5番の診察室にどうぞ・・」

ふいに、マイクから自分の名前が呼ばれた。

よろよろと立ち上がり、診察室に入る。

思ったよりもお年を召した先生だった。

「今日はどうされました?」いつものお決まりの質問から始まる。

今の医者はみんなパソコンに入力しながら診察する。

喉を見せて、

今度は服を上にあげて、

心臓の音を聞く。

後ろを向いて背中の音を聞く。

先生は何も言わない・・・・。

ん?肺炎になりかけてないの?

気管支炎とか・・・。

先生は何も言わず、

パソコンに何か打っている。

「あのぅ・・・頭が痛いんですけど・・・」

「ああ、風邪ですね。お薬を出しておきましょうね」

「はい・・・・」

「それから・・・・小さい点滴をしましょう。

 一時間くらいで終わります。

 その方が楽になるでしょうから・・・・。」

先生は何事もなかったように、パソコンに薬の名前を

入力し、私には外の待合でもう一度待つように言った。

もう一度よろよろと立ち上がり・・・

ソファに腰を下ろした。

点滴・・・・1時間・・・・・

長いな。

トイレに行っておこう・・・・。

時計を見ると、5時過ぎだった。

雪のせいもあり、外は陰気臭い。

山の上ならなおさらのことだった。

自分の体調の悪さもあってか、ここの景色はひどく

つまらないものに思えた。

トイレの鏡には土気色をした・・・・疲れた自分の顔があった。

                ☆

待合に戻ると、自分の名前が呼ばれた。

一番奥のベッドに横たわるように言われた。

真っ白いベッド。

真っ白い布団・・・・

年齢は自分とそんなに変わらないだろう・・・・

声がめちゃくちゃ可愛い看護士さんだった。

「すみません。小児科に呼ばれてるからちょっとだけ

 横になって待っててもらえませんか?」

「はい・・・」

靴を脱いで、真っ白なベッドに横たわる。

病院のベッドなど何年ぶりだろう・・・・。

学校の保健室と重なる。

しかし、夕方の職員の入れ替わり時間ということもあり、

小児科は特に人手が足りないのだろう・・・。

上の方からは子どもの泣き声が派手に聞こえてくるが

自分が寝ている場所は取り残されたように、

静かだった。

時折、スリッパで廊下を走るような音の他は

何も聞こえない。

目を閉じる。

でも、頭痛で・・・・遠くがぼやけたガラス玉のような気分で

眠ることは出来ない。

壁にかかった時計を見る。

幾度となく見る。

「すみませんねえ・・・遅くなって。お待たせしました。

 では点滴しますね。」

さっきの看護士さんが戻って来て、

注射の針を刺すと言う・・・・。

「親指を握って、ちょっとちくっとしますけど・・・。」

今までに幾度となく聞いてきた同じセリフを聞く。

(出来れば一回でいってくれ)

(やっぱり・・・・)

(ダメだったようだ)

それは看護士さんの残念そうな様子からもわかった。

血管に上手く針が入らなかったようである。

「ごめんなさいねえ・・・・。ちょっと上手くいきませんでした・・・・。

 今度はそっちの手を出してもらえますか?」

「はい・・・・。」

左手を出す。

(今度こそがんばってくれ)

チク。

沈黙。

「ああ、よかった・・・入りました。」

可愛い声の看護士さんのほっとしたような声で

上手くいったのだとわかった。

自分は、今まで何度も注射の針が上手く入らなかったことがある。

所謂、「看護士泣かせの腕」なのだそうだ。

まあ、簡単に言えば血管が見えにくい、もしくは出にくいのだ。

今まで、人生において何度か注射を受けざるを得ない場合というものがあった。

そんな中でも、一番上手だった・・・

注射の針がスパッと、全く痛みを感じることなく・・・・

一発で決まった・・・・

と言えるのは、やはり・・・かの吉沢先生だった。

献血センターのベテラン看護士さんも上手かった。

・・・・・・1時間の点滴を受けながら

そんなことを考えていた。

家では今・・・・どうなっているだろう?

子ども達に頼んでおいた・・・・

晩御飯のコロッケは買えたのだろうか?

晩御飯にコロッケ。

しかも、近所のスーパーの・・・となると、

情けないような申し訳ないような気持ちでいっぱいになるが

自分が病気の時は致し方ない。

一向に減らない点滴を見ながら思う。

でも、もしこの点滴が間違って違う薬だったりしたら、

自分はここで死んでしまうのかな・・・・。

もうこの世とはさよならなのかな・・・・などと思ったりもした。

しばらく、ふわふわしていたら、点滴の液が終わった。

言われていたように、ナースコールする。

エリーゼのために・・・が延々と流れるが誰も来ない。

(まあ、ええか・・・血管に空気さえ入らなければ・・・・)

と思っていると、さっきとは別の看護士さんが来た。

マスクをした・・・パーマ頭の40代くらいの人だった。

「ごめんなさいね・・遅くなりました・・・忘れてたわけじゃないのよ・・・。」

と言いつつ、血管から針を抜く。

看護士の勤務が交替になったことも告げられた。

「楽になりましたか?」

と聞かれたが・・・・

すぐにはわからなかった。

おそる、おそるベッドから降りてみた・・・・。

まだ頭痛はするが、さっきよりは元気になった気がした。

何が元気かはわからないが、ほんの少し力が出るような気がした。

会計のところに行くと、めがねをかけた大柄な男性が出てきた。

薬局はどこに行くかと聞かれた。

「すぐ隣は?」と聞くと、

6時で閉まったと言う。時計はその時6時10分だった。

しかも私は見逃さなかった・・・・・

彼の表情の中に・・・・

ほんの少し・・・・エス的な

(お気の毒様・・・でもざまあ見ろ・・・)みたいな・・・・・

笑いが見られた。

                ☆

どうしようもない。

ここからまたタクシーで最寄の駅まで行き、

駅前の薬局で薬をもらい・・・・

JRで家に帰るしかない。

それしかなかった。

憎たらしくも受付のめがねの大男は、

もう一軒ならどこそこの・・・・と

もっと無理な薬局を言う。

「そこは無理ーーーーーっ。」と可愛くもないのに、

ちょっとikkoさんぽく答えてみた。

公衆電話からタクシーに電話をかける。

またこれが、愛想のないおっちゃんの声だった。

「車お願いします」

「お名前は?」

「藤川です」

「ふりかわさん?」

「ふじかわです」

「どこですか?」

「○○病院です」

「わかりました」

雪のちらつく中・・・タクシーが来た。

駅名を告げると、明らかに運転手は

「ちえっ」と言った顔をした。

だって、仕方ないやん・・・・駅前の薬局しか無理なんやもん。

こっちだって、電車で家に帰りたくないわい。

タクシーの運転手は無言で、駅に着くと

「○○円です」と言った。

お釣りをあげたけど、何も言わなかった。

と言うより、何も聞こえなかった。

きっと、不況なのだと思った。

薬局で薬を受け取り、

10分待って奇跡的にJRに乗れ、

自分の住んでいる駅に着くと、

さっきのタクシーの運転手が車を止めて

乗客を待っていた。

その横を足早で通り過ぎた。

マスクをして、ダウンの襟を高くして・・・・・。

点滴をわざわざ遠い病院まで打ちに行った

とんでもない日だったけれど、いつもとは違う経験をした。

自分にとって、大きな病院とは

明らかに非日常なのだ。

点滴のおかげで体もだいぶ快復したように思う。      終わり

                  ☆

ぶっへーーー書いていたら、めっちゃ長くなりました。

最後まで読んで下さったかた、すみません。

だからなんなん?と言われたら、

いえ、なんでもありません・・・と言うしかないですね。

ただただ、何気ない日常の、大きな病院に行った日の

夕方でした。

でも、ほんとに寂しかったあ・・・。一人でタクシー乗って、

山の上の病院に行くんですよ。

雪の積もった日に・・・・。

京都に住んでいた頃は、病院もたくさんあったし、

結構色々なことで病院にもお世話になったのですが、

こちらは病院もあまり多くはありません。

それに自分が大きな病院に行く機会はめったにありませんね。

今回の風邪で、いろんな人から本当に

風邪は年とともに治りにくくなるから・・・・

無理は禁物と言われました。

こんなにこじらせたのは初めてで・・・

自分でもどうしたんだろうと思えるほどだったのですが、

今日はやっと治りかけの「痰」が絡んだ咳、鼻が出るようになりました。

もうすぐ、完治すると思います。

これからも気ままに、楽しく書いていきますので、

よろしくお願いします。

長くなってしまいすみません・・・・。

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母親(短編)

この話は昨日吉沢医院へ行き、待合室で自分が実際に遭遇したことです。

               ☆

やっぱりなあとは思ったけど、吉沢医院は今日もめっちゃ混んでいる。

10時に受付に名前を書きに行き、11時半ごろになりますと言われて

予定の11時半を15分近くも遅らせて出かけて行ったのに

まだ3人も自分の前に患者さんがいる。

仕方ないので、4人がけの茶色い合皮の長いすに腰をかけて

本を読むことにした。

この吉沢先生の待合室には、誰の趣味なのか漫画がたくさん置いてある。

「美味しんぼ」などは私が全く読んでいない先の方まであり・・・

海原雄山はとっくの昔においじいちゃんに

なっているではないか・・・。

でも、この日は漫画の気分ではなかったので、

かと言って、一人で来ているのに子どもの絵本を

読むのも可笑しい気がして、

一人でカバンからつまらない本を取り出して

読んでいた。

たまたま家を出てくる時に、目に入った本だった。

しばらくして、「しまった、体温計を借りて、熱でも計っておけば

 よかった」と思った。

先生に説明する時に、症状を説明しやすいからだ。

もしも、まだ熱があるからといって、インフルエンザの検査でも

された日にはたまらない。

のどが痛くて、来ているのに、鼻の奥にあんな細い綿棒のようなものを

ぐりぐり入れられたら、余計調子が悪くなりそうだった。

(先生・・・私、もう熱はないんですよ・・・・。のどが痛いんです・・・・)

その時だった。

私よりも先に呼ばれた患者さんが診察室から出てきた。

見るからに私よりも若い母親がマスクをしていて、

2、3歳位の双子の女の子を連れている。

私は、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。

すると、双子のどちらかの子が急に泣き出した。

「もう・・・・・いい加減にしてっ!」

「ママ、今日はしんどいねんから・・・・スリッパ脱げたくらいで泣かんといて」

(おぉ・・・・なかなか・・・・いい線いってるねえ)

何がって?

あのね、このくらいの年齢の子にいい加減にしてって言っても

通じないんだって・・・・。

いい加減って何かもわかんないんですから。

「そんなことで泣くんやったらママ、もう知らん」

(うっわーーー言ってるよーーーしかもママ泣きそうになってる声だ)

待合室は女性ばかり・・・でもみんな聞こえない振りをしている。

こういう場合、そちらを見ると逆にママを焦らせる結果になる。

女の子はより一層大きな声で泣き出した・・・・・

形容するなら・・・・

ぎゃあーーーーーーーーーーーーん・・・・・・って感じかな。

それが大音量で待合室に響き渡っている。

母親はますます・・・・ヒステリックに怒り出す。

「もう、吉沢先生んちの子にしてもらうかっ。

 家に連れて帰らへんでっ。すぐに泣き止み」

いや、それはちょっと無理って。

とっても、美しいお母さんなんですが、子どもが泣き出したら

話は別なんでしょうね・・・・。

私は、思いました。

もし自分がこんなに調子悪くなければ「大丈夫?」って

声の一つもかけてあげられるんですが・・・・

その日は無理。

第一、向こうが「この人・・・何?インフルエンザ?近寄らないで・・・」

とか・・・「何?この人・・・変な人。宗教の勧誘?」とか

思われたら、嫌じゃないですかあ。

かわいい模様入りのマスクですよ・・・・。いい大人が・・・。

絶対怪しい人だもん。

で、静かに椅子に座ってました。

「藤川さんーーー中へお入りください」

(結局、私、藤川さんなんですけど・・・何か?)

程なくして自分の名前が呼ばれたので・・・

「はい・・・げほっ」とかすれた声で返事して、

ドアをノックして、

中に入って行きました。

「あらあ、今日はどうされました?」なんて軽快に聞かれつつ・・・。

予想通りだ。

                        ☆

それで、私が診察室から出てきた時には、その親子は帰っていたから

無事に連れて帰ってもらえたわけです。

吉沢先生の家の子にはならずにすんだのね。

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吉沢先生(短編)

久しぶりに風邪を引いた。ここ数日は鼻水が出るなあと思っていたのだが

急にのどに来た。

私は子どもの頃から風邪を引いたら、扁桃腺に来る子で

「扁桃腺を切らないといけない」と近所の幼馴染のおじいちゃん

のお医者さんにいつも言われていた。

大人になると風邪も引きにくくなるものなのかな。

でも昨日は一日中寝ていた。

咳をすると血を吐くかもと言うくらい痛かった。

朝から背中や関節が痛くて・・・

とにかく眠った。

家族には迷惑をかけたけど・・・・。

                  ☆

さて、うちの近所には吉沢医院という病院がある。

そこの先生は大きな病院の小児科部長をされていたが

定年で辞めて、家に戻り、フルタイムで

仕事をされている。

私が結婚して初めてこの地に来た時は、

まだ平日の夜だけしか開いていなかった。

吉沢さんは女医さんである。

頭は真っ白でショートカット。

体はふっくらされていて、笑顔は優しい。

ちょうどプロレスラーのアジャコングに似ているような気がする。

先生ともかなり長いお付き合いになる。

何かあったら、いつもここに駆け込んでいたから。

吉沢先生には息子さんが一人おられる。

日曜日に行くと、受付が息子さんだ。

なんでわかるかと言うと、顔がそっくり同じだからだ。

たまたま・・・息子さんの同級生という、うちの子どもの同級生の

ママさんに会った。

そのママさんは小さい頃よく吉沢先生の息子さんと遊んでいたそうだ。

母一人、子一人。

お父さんとは息子さんが幼い頃に離婚したそうだ。

吉沢先生のふくよかな優しい笑顔の中に

母の強さを感じる。

きっと大変なことも多かったことだろう。

でも医者という職業をしながら、子どもを育ててこられたことは

すごいなあと思う。

               ☆

もうすぐ私の診察予定の時間が来る。

今日も久しぶりに吉沢先生に会ってくるとしよう。

半そでのティーシャツに白衣姿の先生は

「あら・・・今日はどうされましたか?」と軽快な口調でおっしゃるに違いない。

よく聞けば絶対に関西弁ではない。

標準語だ。ハイカラな感じだ。

さっき診察券と保険証を窓口に出してきた時に、

私は住所変更の旨を伝えた。

そう・・・先生と同じ町内に引っ越して来たんです。

たまたまですけど。

でも、きっと先生と最期のお別れをする日まで、

ずっとずっとここにいますから・・・・。

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塚田姉妹(短編)

あーあ、たまには休ませて欲しいのに、また小学生の娘がお約束をしてきたと言う。

「お約束」というのは学校が終わってから、お友達の家に遊びに行くことを言う。

「ママ、風邪ひいてしんどいねんから・・・朝もそう言うたやろ」

「でも・・かえでちゃんとDSしたかったんやもん」

娘は全く悪びれずに言う。全く。しかもうちに来るというのだ。

            ☆

このかえでちゃんという子は三人兄妹の真中で、

幼稚園の頃から知っているが・・・・。

本当に薄気味の悪い子だった。

大人としてこういうことを言うのは絶対にタブーだということを

私は知っている。

だから絶対に顔には出さないし、

家に来ても笑顔で迎えるようにしている。

むしろ、他の娘の友達よりも・・・より優しく・・・・より親切に。

ああ、私ってやっぱり・・・・腹黒い?

でも・・・とにかく薄気味悪いのだ。

もし私が漫画家だったら、必ず似顔絵を描いて

もっとわかりやすく説明できるだろうに。

漫画家ではないので、それは出来ない。

でも・・・・塚田 楓という名前は本当に美しかった。

そして、声も美しい子だ。

一つ下の年子の妹がいて、その子は塚田 椿という。

この椿(つばき)ちゃんはかえでちゃんとは全く顔が違う。

性格も・・・・多分全く違う。

性格は人それぞれだから、違うのは当たり前かと思う。

かえでちゃんは、いつも長い伸ばしっぱなしにしたような

もつれた髪の毛で半分くらいは顔を覆われている。

目は一重・・・・。

そして、こっちが話しかけてもよそを向いてちょっと笑うだけで、

こっちを見ない。

もちろん挨拶もしないし、靴もそろえない。

極度の恥ずかしがり屋なのかなと思っていた・・・。

うちに来た時は、娘といつもゲームをしている。

この辺りでは、よそのおうちに行く時には、

100円くらいの袋菓子を持たせるのだけれど、

それもない。まあ、それはいいとして。

そして、お約束には必ず、妹が無言でついてくる。

それをかえでちゃんが、いまいましそうに見るのだけれど・・・・

妹は必ず、うちにやって来るのだ。

しかも無言で。

妹もめったに言葉を発しない。

うちに来て何をするのかと言えば、

ただひたすらおやつを食べているのだ。

多分、塚田姉妹の母は娘たちの行動は知らないだろうと思われる。

まあ、いい。

そんなことをいちいち気にする自分が、すごくけちなのかと

思えてくる。

自分は何て心の狭い人間なのだろうと

悲しい気持ちになる。

しかし・・・・真夏に真冬のフリースを着てきたり、

参観日の日に、片方ずつ違う靴下を履いていたり・・・・

大きすぎる服を着ている姿を見ると・・・・

何ともいえない気持ちになる。

母親は参観日には決して来ない。

私はかえでちゃんのそのことを薄気味悪いと言っているのではない。

彼女の瞳が怖いのだ。

何か得体の知れない・・・・悲しみ?憎しみ?嫉みのような

物を感じるのである。

娘とかえでちゃんは3年間ずっと同じクラスになっている。

             ☆

去年のことだった。

ある日娘のランドセルを何気なく見たら、

小さい手紙が入っていた。

その中には

「バカ   ブス  アホ」と書かれていた。

一瞬ぎょっとして、これは私が見てはいけないものだった・・・・とそっと

元に戻し、娘が何か言ってくれるのを待った。

すると、娘はしばらくして・・・・

「ママ、今日なこんな手紙が机に入っててん。」と言って紙を差し出した。

「うーーん、ひどいねえ。それで、あんたはどうして欲しいん?」

と聞くと、しばらく考えてから

「先生に見せてもいいけど、クラス全員の前で騒ぎにするのは

 やめて欲しい」と言った。

私は、先生に手紙を書き、犯人は追求しなくてもいい・・・

先生の指導にお任せするので、話を聞いてやって欲しい。

手紙を書いた子はきっと心に問題があるのかもしれないから・・・

例えば、寂しさ、もしかすると、嫉妬もあるかもしれない・・・と言った。

すぐに担任から電話がかかって来たので、そう伝えた。

娘の話をいろいろ聞いて、もう私の中では

その手紙を書いた子はわかっていたのだ。

そう・・・・かえでちゃんだった。

確信した。

しばらくしてまた担任から電話があった。

先生もそのノートの切れ端らしき紙から

ほぼ書いた子を特定できたので話を聞こうとしたら

号泣しだして、話を聞けなかった。

でも、間違いないと思われる。

お母さんのおっしゃる通りです・・・・と。

(なに・・・?泣いたから話を聞かなかったの?それで、なんで

 その子がそれを書いたか、本当の理由がわかったんかい?)

私は言葉を飲み込んだ。

娘ともいろいろ話し合って、なんとか道徳的にいや、理想的に・・・・

教育的に・・・・模範的に・・・・

話をまとめた。

(本当はかなり腹が立ったけどね)

だって、塚田さん・・・・娘が何してるか・・・あなたは

全く知らないわけでしょ?

かえでちゃん・・・・寂しいんだよーーー。

でも、担任は親には何も話してないと思う。

ちゃんと話せよ。

             ☆

こうして、塚田姉妹は何事もなかったようにうちに来る。

私は、挨拶くらいしてもいいのに・・・と思う。

そして、いつか彼女たちが気付いてくれたらいいのにと思う。

何に?

何やろ。

挨拶?

うん・・・それもある。

挨拶、大事やで。

靴そろえること?

うん・・・まあ、それもある。

よその家では靴そろえてもバチは当たらへん。

顔見て話すこと?

もちろん・・・・よそ見て薄ら笑いしてても気持ち悪いだけ。

話かけられたら、返事くらいしろ。

あまり大金、持ち歩かないこと。大きい子にカツアゲされちゃうぞ。

可愛い妹に自分の宿題、させないこと・・・・。

虫歯の治療すること。

            ☆

あはははは・・・・自分で書いてて可笑しいわ。

結局、私がちっちゃい人間ってことですかいな。

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